1. TOP
  2. 出版物・研究成果等
  3. 定期刊行物
  4. 証券経済研究
  5. 第135号(2026年6月)株式市場研究会特集号

第135号(2026年6月)株式市場研究会特集号

取引施設間競争の結末とNMSのコストの考察

辰巳憲一(学習院大学名誉教授)

〔要 旨〕

 国内単一市場システム(National Market System,以下ではNMSと略)とは,簡単に要約すると,すべての証券会社と取引施設(venues)が最新情報通信技術を装備した通信とソフトで結ばれ,あたかも1つの株式市場のように機能し同一銘柄であれば価格も1つになっているという意味である。
 このようなNMSを構築する必要はあるのか,その運営にはどのような課題があるのか,について本稿は様々な局面から考察してみる。
 築上げられ,実用化され,使い込まれた技術は,市場から厳しい試練を受けてきた。そして,それは将来の技術の基礎となり,改良・改善の必要性が認識され,次の技術進歩を生んでいく。証券取引システムについては,多額の資金をかけて市場に導入し,リスクを取りながら使い込んできたのはHFT(高頻度取引)であり,各取引施設である。
 情報探索活動と価格形成の関係については古典的な学説が存在するので,まずはそれを説明し,証券業において基本に置くべき概念などを展開しよう。
 欧米では,市場参加者はどこへ発注し執行するか市場を選択する(できる)時代になっており,取引施設間競争が進んでいる。そのようななかで,執行市場選択要因のうちどのような要因が重要なのか,先行する欧米の実証研究を次に展望する。日本では,注文の約定率,ダークプールなどのデータは一般に入手困難で,現状このような実証分析は出来ない。様々な要因を抜き出す欧米の先行分析から,日本にとって参考になる要因を見つけ出そう。
 そして,NMSを構築するメリットはあるのかどうか,NMSを構築し維持するコストはどれくらいかを考察する。巨大証券取引システムには独自の問題があり,サーバー攻撃や内部不正などに対抗するセキュリティも万全でなければならない。
 これらの展開に基づき,NMS構築の結末と証券業に起こる状況を最後に描く。NMSがもたらす超競争社会と必然的に生まれてくる膨大な費用をどう負担するのかがポイントである。仲介サービスを提供する証券業の未来が市場参加者にとって困難な状態であるならば,困難を避けれる道筋は存在するのか,それは一体何なのかを最後に考察する。
 NMS自体が目標になるのではなく,証券取引システムの効率化と市場参加者が求めるシステムの品質の高度化の2つがまず目標になるべきである。課題は,コスト削減とシステムの品質の充実という二兎を追う姿勢である。NMSがもたらす帰結やその費用負担について十分に配慮することなく,やみくもにNMSを推奨したり,強制することは厳に慎まなければならない,ことを本稿では説明する。
 NMSが長い間稼働し,価格改善効果が広く波及するとすると,その成果が膨大なNMS構築・運用のコストを超えることが期待できる。しかしながら,これは一人ひとりの投資家にとってまだ実現していない将来の便益なので,目前に迫ったNMSコストの負担には納得しないだろう。
 それゆえ,将来世代の便益を実現するためにNMSコストの多くは公的資金で負担するしかないだろう。経済のインフラは公共部門が負担するのが広く認められた原則なのである。NMSは十分な準備のもと国家が推進すべき一大プロジェクトなのである。

  • facebook
  • twitter
  • line

タグ

  • 国内単一市場システム(NMS)
  • HFT(高頻度取引)
  • 証券取引システムの効率化と品質
  • 執行市場選択