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第42号(2003年6月) ユーロ誕生後のヨーロッパ証券業界再編

アメリカ年金基金におけるETIと社会的スクリーン投資
―年金資産運用における社会的責任投資の考察―

森祐司(ペンシルバニア大学ウォートンスクール客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿では,近年,注目される社会的責任投資について,この分野でも先行する米国の年金基金における変遷を参考に,わが国の年金資産運用に対する示唆を探っている。考察対象としては社会的責任投資の手法の中でもコミュニティー投資である「ETI」と,企業評価に際し,倫理・環境・社会面 を考慮して銘柄を選定する「社会的スクリーン投資」を取り上げる。
 ETIはその年金基金が所在する地域の経済成長・雇用促進が目的で,株式・不動産投資,ベンチャーキャピタルなどの形態をとる。その投資額は,年金基金資産全体から見ると小さく,そのほとんどが公務員年金によるものである。また社会的スクリーン投資では,南アフリカ問題を始めに,タバコ銘柄に対するスクリーンなどが公務員年金で導入されたが,その額はやはり小さく,企業年金は導入に慎重である。ETIも社会的スクリーン投資も公務員年金で広がった要因のひとつに,政治的圧力が大きかったことが挙げられる。また,両手法ともパフォーマンス実績は芳しくなかったため,リターンを犠牲に社会貢献をする投資だという見方が年金基金にはある。このため,ERISA法の下で受託者責任を意識する企業年金では,そのような投資には慎重にならざるを得なかった。
 日本の企業年金も慎重な判断が必要とされるため,ETIや社会的スクリーン投資が普及するには,受託者責任を果 たせるような理論構築や実証結果が必要とされると考えられる。

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