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第124号(2023年12月) 日米資本市場研究会特集号

アメリカ大手小売企業の金融事業と投資銀行のリテール・バンキング
—フィンテックをめぐる攻防—

髙山浩二(西南学院大学商学部准教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 小売最大手のWalmartは,2000年代の半ばに銀行業に参入しようとしたが,銀行業界の強い抵抗にあい成功しなかった。銀行業への参入を諦めたWalmartは,銀行と提携して様々な金融サービスを提供するようになった。また,デジタル技術を活用して安価な金融サービスを提供するフィンテック企業が台頭し,中には銀行免許を取得する企業も出てきた。
 デジタル技術を活用することで,最も効率化することができるとされているリテール金融の領域には,フィンテック企業だけではなく,従来は富裕層を顧客としてきた投資銀行のGoldman Sachsも進出してきた。Goldman Sachsは,デジタル技術を活用すると同時に,その知名度とブランド力を生かして,ほかの企業のエコシステムに自社の金融サービスを組み込むことで顧客を獲得しようとした。しかし,銀行免許を取得したフィンテック企業は,成長の追求から収益の確保へと経営の舵を切り,Goldman Sachsは,リテール・バンキングからの撤退に向けて動き出している。
 こうした状況の中で,AppleやWalmartといった非金融企業のフィンテック市場への進出が勢いを増している。彼らは,自社のエコシステムに顧客を囲い込むために,金融事業を強化しようとしている。こうした一連の動きは,リテール金融の領域で収益をあげることの難しさを示すと同時に,急速に成長してきたフィンテック市場で生じつつある幅広い変化を反映している。

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