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第124号(2023年12月) 日米資本市場研究会特集号

アメリカ株式市場における情報開示制度と公開会社の衰退

佐賀卓雄(当研究所名誉研究員)

〔要 旨〕

 アメリカ株式市場においては,1990年代後半から公開会社が半減している。それは,直接にはIPO(新規株式公開)の減少,M&Aなどによる上場廃止(delisting)の増加が原因であるが,他方では時価総額が10億ドルを越える非公開会社,いわゆるユニコーンが増加している。
 これらの現象をもたらした構造変化については,これまでの研究成果としていくつかの説明仮説が提起されている。このうち,説得性が高いのは,①規制の強化によるコスト負担が公開のメリットを減退させた,②私募市場の規制緩和により資金調達が容易になり,非公開に留まる企業が増加した,そして③企業の無形資産の増加によって,競争上,公開にともなう情報開示に消極的になっている,である。
 いずれの要因にも共通しているのは,公開会社と非公開会社に義務付けられている情報開示義務の負担の違いである。また,公開会社に対するほどの厳格な情報開示義務がないことを一因に,ユニコーンの不正行為が増加している。2010年代後半から,ユニコーンの不正が目立ち始め,SECと法務省は非公開会社に対する法規執行を強化している。
 しかし,他方で,公開情報の内容によっては,競争上の不利益を及ぼすものもある。特に,ICT関連企業においては,ビジネスモデル,プログラム,アルゴリズムなどソフトを含む無形資産の重要性が高まっているから,こうした事情は切実である。
 このため,現実には,情報開示には「重要性基準」(materiality standard)や,「情報の非開示」(redacted disclosure)が認められており,競争上不利になる情報開示を保留する手段が用意されている。
 この意味では,この間の規制の見直しによって,公開にともなう負担と利点のバランスが揺らぎ,両市場の間で新たな均衡を模索している段階ともいえる。

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