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第120号(2022年12月)

SPAC(特別買収目的会社)ガバナンス:その利益相反の構造

佐賀卓雄(当研究所名誉研究員)

〔要 旨〕

 SPACのライフサイクルは,IPO,ターゲット企業の探索と精査,そして買収(de-SPAC)というプロセスから成る。株主はde-SPACの際,買収案に対する賛否に関係なく,償還権(redeeming right)を行使して投資を回収できる。また,仮に期間内に買収できなければ,SPACは清算され株主は持分に応じて投資額と運用益の配分を受ける。SPACに買収されたターゲット企業は経営体制を再編成し,SECの情報開示要件と取引所の上場基準を満たすことによって上場企業となる。
 SPACスポンサー(創業者)はプロモート(報酬)として2万5,000ドルで議決権,償還権を持たない株式20%を取得する。スポンサー株は,de-SPACが成功した際には普通株に転換される。つまり,買収に成功しない限り,スポンサーの報酬はゼロである。
 SPACも上場会社であるから取引所のガバナンス基準が適用される。ただし,SPACはde-SPACまでは事業の実態がなく,エスクロー勘定の預託資金を使うことができないため,取締役会の業務はターゲット企業の候補の探索と精査および買収に関する諸条件の検討だけである。その報酬も,ゼロかスポンサーのプロモートの一部を配分する形で支払われる。
 また,アンダーライター(引受人)の報酬の一部は後払いで,de-SPACの際に支払われる構造になっているため,ターゲット企業の質の判断よりも買収自体を優先させるインセンティブ構造になっている。
 SPACは,スポンサー,CEO,取締役会と一般の投資家との利益相反関係により,両者のリターンには大きな乖離を生み出す構造になっている。従って,SPACが伝統的なIPOに対する代替的な公開化の市場として定着,成長していくためには,その参加者のインセンティブ構造を抜本的に見直すことが必要であろう。

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