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証券経済研究 第113号(2021年3月)

アベノミクス下の企業財務—設備投資・資金調達・バランスシートの変動—

木村由紀雄(目白大学名誉教授)

〔要 旨〕
 アベノミクスは2013年から20年8月まで長期間,首相を務めた安倍晋三氏の内閣が採用してきた経済政策である。異次元金融緩和,機動的な財政政策,企業投資を喚起する成長戦略の3本の矢を武器に,日本経済をデフレから脱却させ,物価上昇率2%を伴う長期的な安定成長軌道に乗せていくことを目指した。
 2013年,アベノミクスは始動,異次元金融緩和の効果で,円安,株高が進み,経済活動が活発化した。スタートダッシュ成功である。しかし,14年4月の消費税率引き上げ後,駆け込み需要の反動で消費は沈滞し,14年度の経済はマイナス成長へ転落した。
 ところが,15年には円安が進み,経済は持ち直しと揺れ動いた。アベノミクス始動から2年あまり経ったところで,安倍首相はアベノミクスは道半ば,第2ステージに入るとして,供給力強化に力点を置いた新三本の矢を提唱した。しかし,現実の経済は,円相場,海外経済の動向などに翻弄され,1年ごとに浮き沈み,一進一退が続いた。
 この間,日本銀行は一貫して異次元金融緩和政策を続けたが,物価目標2%には一向に近づけず,目標達成の時期を先送りし続けた。経済情勢が悪化すると,何度か緩和政策を強化した。
 アベノミクスは長期間,続けられたが,安倍政権はついにデフレ脱出宣言をすることができなかった。物価上昇率はわずかながらプラスとなるのが普通になり,デフレとは言えない状態が実現しただけである。国民にアンケートをすれば,アベノミクスの恩恵は及んでこない,と答える人がいつも圧倒的に多かった。2020年8月,安倍首相は病気を理由に辞職した。後任の菅新首相は安倍内閣の政策を継承すると表明した。日本銀行の黒田総裁は18年3月に再任され,異例の2期10年間,務めることになり,異次元金融緩和政策を8年以上続けている。
 アベノミクスの成果は限定的といわざるをえないが,企業収益は大いに潤ったといえる。売上げの伸びが小さくても,利益の伸びは大きくなるという企業体質を作り上げており,売上高利益率は史上最高水準となった。長らく不振の続いていた建設,電気機器などの業界も復活してきた。設備投資も着実に伸びたが,アベノミクスの3本目の矢,「企業投資を喚起する成長戦略」に呼応するところまで伸びたとは思えない。
 企業の設備投資はキャッシュフローでみると,営業キャッシュフロー(営業CF)の範囲内にとどまっており,設備投資資金を企業外部に求める必要がない。営業CFから設備投資資金を差し引いたフリーキャッシュフロー(FCF)も高水準である。つまり,財務活動の必要がないと思われる企業財務の状況であるが,配当金支払い,自己株式取得への企業の意思は固く,それに備えたキャッシュインの財務活動も活発になってきている。負債取り入れが増加しているのであるが,これにはアベノミクスで提案のあったROE向上を意図した側面があるように思われる。つまり自己資本と負債の比率を変え,いわゆる財務レバレッジを活用しようとしているのではないか。負債といえば,長期借入金と社債だが,最近,社債によるキャッシュインが増えてきている。
 財務活動の結果,BSの変化で目立つのは資本金(プラス資本剰余金)の縮小である。利益剰余金の動向いかんによっては,自己資本比率の低下となっていく。これは固定負債比率の上昇の兆しでもある。

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