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第41号(2003年3月) 公社債流通市場改革と国債管理政策

拡大する日本国債市場の危機

中島将隆(甲南大学教授当所客員研究員)

〔要 旨〕

 日本の国債市場は,今日,一見すると極めて安定的である。金融機関の国債投資は拡大し,国債相場も堅調である。長期国債の応募者利回りは平成14年10月には1%を下回り,平成15年1月には連日,史上最低水準の記録を更新している。国債市場は未曾有の活況を呈しているのである。だが,この安定は外観だけのことである。日本の国債市場は,今日,重大な危機に直面し,この危機は深く潜在化していると思う。その理由は次の点にある。
 まず,国債発行の立憲的制約が空文化し,財政規律が完全に消滅していることである。財政法第4条は国債発行を制限し,赤字国債の発行を禁止している。ところが現実には,赤字国債発行額は建設国債発行額を上回り,平成14年度の国債市中消化額は100兆円を超えるに至った。財政法第5条は国債の日銀引受発行を禁止している。この禁止規定を守るため,これまで日本銀行の国債買いオペ対象銘柄は発行後1年経過後の国債に限定されていた。この制約は,平成14年1月17日から撤廃された。そして,直近発行2銘柄を除く新発債が新たに買いオペ対象銘柄に追加された。新発債が買いオペ対象となったことにより,事実上,赤字国債の日銀引受発行が可能になったのである。また,国債発行を制限するため赤字国債と建設国債を区別し,国債償還についても厳密に区別していた。すなわち,赤字国債は現金償還,建設国債は60年償還というルールである。ところが,このルールは昭和59年12月に変更された。赤字国債の償還は現金償還でなく,建設国債と同じ60年償還ルールが適用されることになったのである。以後,今日まで赤字国債の償還のために赤字国債の借換発行が行われている。かくして,他国にその例をみない国債発行の立憲的制約は有名無実となり,財政規律は完全に消滅してしまった。
 第二に,国債市場の活況は,日銀資金の供給と日銀の長期国債買いオペによって支えられている点である。日銀は超金融緩和政策を進めるため,平成13年3月,超低金利政策から量的緩和政策に転換した。日銀当座預金残高目標を拡大して量的緩和政策を進めている。しかし,マネタリーベースを拡大しても銀行貸出は減少を続けているからマネーサプライは増加しない。金融機関の潤沢な資金は国債投資に向かうことになるが,国債相場が暴落すれば金融機関には巨額の評価損が発生する。そこで,国債相場を維持するために,日銀は長期国債の買いオペ額を拡大することにした。買いオペ額を拡大するため,平成14年1月17日から直近2銘柄を除く新発国債を買いオペ対象銘柄に追加した。そして,平成14年2月から当座預金残高目標を10兆〜15兆円に引上げ,その上で国債買いオペ額を増額して従来の月額買いオペ額8,000億円から1兆円に引上げたのである。日銀当座預金残高目標は平成14年10月31日には更に20兆円に引上げられ,同時に,国債買いオペ額も月額1兆2,000億円に拡大された。日銀の国債買いオペ額の増額が決定された平成14年10月31日以降,長期国債の応募者利回りは急速に低下し1%以下の水準で推移している。平成15年1月30日には,ついに,長期国債の応募者利回りは0.75%にまで低下した。金融機関の国債投資が拡大し国債市場が活況を呈しているのは,単に,投資先を持たない遊休資金が存在するからだけではない。日銀の量的緩和政策によって金融機関に国債消化資金が供給され,更に日銀の国債買いオペによって国債価格が維持されているからである。
 第三に,国債満期構成の短期化が国債市場を不安定にしている点である。この数年間に国債の満期構成が急激に短期化した。長期債の10年債は減少し,2〜5年の中期債が増加している。特に,借換債の満期構成はより短期化し,短期債の発行額が長期債を上回っている。教科書論的に考えると,国債費軽減のために金融緩和期には長期債を,金融逼迫期には短期債の発行が望ましい。だが,現実は逆転して超金融緩和期に国債の満期構成が急速に短期化しているのである。超金融緩和期における満期構成短期化のリスクは,金利上昇期に国債費が一挙に上昇することである。格付け会社のムーディーズは,国債のデフォルトを定義して,国債満期構造の変化もデフォルトの定義に含めている。この定義によると,日本の国債市場は,既にデフォルトが始まっている,ということになろう。
 第四に,低利国債の価格変動リスクについてである。確定利付で発行される国債は市場金利が上昇すると市場価格は下落する。しかし,市場価格の下落は低クーポン国債ほど下落幅が大きいという点である。同じ1%の金利上昇であっても,高クーポンの国債と低クーポンの国債とでは下落幅が全く異なる。今日,史上空前の低利率によって国債が増発されているが,この国債は僅かの市場利回り上昇によって国債相場が大暴落するのである。

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