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第112号(2020年12月)

コロナ禍を受けたECBによる金融緩和の論点整理

土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員)

〔要 旨〕

 本稿は欧州中央銀行(ECB)が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う金融市場の大混乱を受けて導入したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の概要とその効果,問題点を整理する。
 未曽有の経済危機の初動対応としてPEPPは大きな成果を上げた一方で,現段階でも様々な問題を抱えている。実質的な財政ファイナンスに対する懸念に代表される諸問題は,先行して実施された資産購入プログラム(APP)に共通するものだが,PEPPがそれらを一段と深刻にさせてしまったきらいは否めない。さらに時間の経過に伴い,金融や経済の条件が変わることでPEPPが持つ問題や課題が変質していく可能性も十分に存在する。
 財政拡張を金融緩和で支える構図をして,先進国の財政と金融のあり方の新常態と称しても過言ではない。とはいえこうした新常態のなかでも,いわゆる財政ファイナンスの領域に近い経済ほど通貨価値の毀損リスクや物価上昇の加速リスクを負っていると判断されるなら,保守的な組織であるべき中銀として,ECBはPEPPで一段と膨張したバランスシートの圧縮に戦略的に取り組む必要がある。将来的な金融不安ないしは景気低迷が予想されたときの追加緩和の「のり代」を残しておくためにも,バランスシートの圧縮は肯定される。
 いずれにせよPEPPを実施したことにより,ECBがAPP以来直面する課題が一段と深刻なものになったことは間違いないと言えよう。

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