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第112号(2020年12月)

退職給付制度が高齢者雇用制度に与える影響

足立泰美(甲南大学経済学部教授)
北村智紀(東北学院大学経営学部教授・ニッセイ基礎研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 本研究は,厚生労働省「就労条件総合調査」を用いて,退職給付制度(退職一時金・年金)の有無およびその支給水準(退職一時金額・年金掛金)と2006年に定められた高齢者雇用確保措置との関係を検証する。先行研究では,退職一時金や企業年金などの退職給付制度と企業の生産性や企業価値に関連する研究が多数ある。また,公的年金制度の給付水準や支給開始年齢の変更と,高齢者の就業継続との関係を論じた研究や,政策の評価も行われている。一方,本研究は,退職給付制度と高齢者雇用の関係について扱った点がこれまでの研究にない特色である。推計結果から,中小企業では,退職給付制度がない企業に比べて,一時金制度,年金制度,ならびに両制度がある企業では,定年を60歳に据え置いて再雇用制度とする企業が多く,定年を65歳以上とする企業は少ない結果が得られた。支給水準と高齢者雇用制度においても同様の結果であった。退職一時金額や年金掛金が高いほど,定年を60歳に据え置いて再雇用制度とする企業が多く,定年65歳以上とする企業は少ないことが解った。大企業では,同様の傾向が確認されたものの,これらの傾向は弱まるものであった。本研究の結果は,高齢者雇用に関しては,企業の退職給付制度が高齢者の長期雇用を促進するのではなく,定年を60歳に据え置き,再雇用を促す制度として利用されている可能性を示唆するものである。

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