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第82号(2013年6月) 金融危機後のヨーロッパにおける金融規制の新潮流

ロンドンの鯨─JPモルガンCIOのCDS取引─

吉川真裕(当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 2012年4月6日,JPモルガン・チェースが大量のCDSの売り注文を膨らませており,ロンドン・オフィスに所属するBruno Iksilは「ロンドンの鯨」と呼ばれているという報道が流れた。5月10日の第1四半期決算発表に際し,CDS取引で第2四半期に20億ドルの評価損が発生したことをJPモルガン・チェースは発表した。7月13日の第2四半期決算速報では関連する損失額が44億ドルに膨らみ,第1四半期と合わせて58億ドルに達することが発表され,10月12日の第3四半期決算速報では関連する損失額が4億4,900ドル発生し,累積で62億ドルに達することが発表された。
 2013年1月14日,監督機関であるFRBとOCCからJPモルガン・チェースに対する業務改善命令が発表され,1月15日にはJPモルガン・チェースの取締役会が内部調査報告文書の公開を決定し,1月16日に129ページに及ぶ内部調査報告文書が公開された。さらに,3月14日には上院常設調査小委員会が301ページに及ぶ調査報告書を公表し,3月15日には上院常設調査小委員会の公聴会でIna Drew前CIO CEOやDoug Braunstein CFO等が証言をおこなった。
 JPモルガン・チェースの内部調査報告文書も踏まえて作成された上院常設調査小委員会の調査報告書は現在入手できる記録や証言をほぼ網羅しており,事態の真相はほぼ明らかになっている。二流企業CDS指数の買いポジションの損失を一流企業CDS指数の売りポジションで埋め合わせようとしたのが原因であるが,損失の隠蔽や取引制限回避,当局への報告回避なども事態の発見を遅らせていた。

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