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第60号(2007年12月)

経営者報酬の構造とナンバーズ・ゲーム(下)

佐賀卓雄(当研究所理事・主任研究員)

〔要 旨〕

 2000年春のITバブル崩壊後,相次いで露見した不正会計処理はアメリカ証券市場に対する投資家の信頼性を大きく損なうものであった。SECは会計基準の厳格化に取り組み,その結果,2000年前後に決算修正が急増した。
 しかし,このような事態はそれまでに進行していた会計処理をめぐる構造的変化が背景にあった。アメリカでは,SECに提出される財務報告は一般会計原則(GAAP)にしたがって作成することが義務づけられているが,企業はそれとは別に独自に修正を加えた「実質利益」を計算し,それが一般に流布するようになっていたからである。投資家はむしろこちらを参考にして投資判断を行うようになっていた。利益概念をめぐるこのようなダブル・スタンダードが不正会計処理の背景にあったのである。
 水増しされた「実質利益」は経営者にとっても都合の良いものであった。というのは,彼らの報酬は株価の動向に大きく左右されるものに変化しており,株価に影響するのが四半期毎の利益であったからである。こうして,市場での期待に応えるべく加工された「実質利益」を作り出す「ナンバーズ・ゲーム」(「数字のゲーム」)が広く競われることになった。
 1990年代後半から相次いで露見した会計スキャンダルの背景を明らかにし,それらがストック・オプションという業績連動型報酬の普及によりもたらされた経営者の「強欲の連鎖」によるものであったことを明らかにする。

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