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第47号(2004年9月)

日本企業における分社化に関する実証研究

大坪稔(佐賀大学助教授)

〔要 旨〕

 本研究は,分社化がいかなる機能を有するのかについて日本企業を対象とする実証分析を行った。親会社が傘下企業の株式を100%所有するような分社化が実施される場合,分社化の実施は株主に帰属するキャッシュ・フローへ直接的な影響を与えないため,分社化は株主の富へ影響を与えないことが予期される(仮説1)。さらに分社化に関するこれまでの研究より,分社化の機能として小田切[2000]の人件費の節減(仮説2)や伊藤・林田[1997]の従業員の関係特殊的投資の促進(仮説3)が挙げられた。
 実証分析を行った結果,主としてつぎの3点が明らかとなった。第一に,分社化の実施というアナウンスメントに対し,株式市場は有意にプラスの反応を示す点である。これは仮説1を棄却する結果であり,同時に分社化が経済的機能を有する可能性があることを示唆している。第二に,分社化の実施により人件費の節減が少なくとも短期的には実施されておらず,したがって分社化は収益性の改善に寄与していない点である。この結果は仮説2を棄却する結果であり,分社化が少なくとも短期的にはROAなどの収益性の改善をもたらすわけではないことを示している点において重要である。第三に,多角化の進んだ企業ほど積極的に分社化を実施している点である。これは,従業員の関係特殊的投資を促進するために多角化企業において分社化が実施されるという伊藤・林田[1997]の主張,すなわち仮説3を支持する結果である。また,これ以外にも,分社化が収益性の低下傾向にある企業によって実施されている点などが明らかとなった。
 これらの結果を統合すると,多角化が進みつつある企業が従業員の関係特殊的投資を促進するために分社化を実施すること,さらにはこのような分社化の結果として株主の富がプラスとなると考えられる。

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