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第34号(2001年11月) アメリカ型企業ガバナンスの諸側面

理念としてのアメリカ型企業ガバナンス

渋谷博史(東京大学教授・当所客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿は,2年前の渋谷博史[1999]「アメリカの機関投資家とコーポレート・ガバナンス:研究視角設定の試み」の続編である。そこに共通する問題意識は,経済社会構造の中心にある企業領域が,民主主義的な基準からみて「ブラック・ボックス」になると,アメリカ社会の民主主義も市場経済も,不健全なものになってしまうので,そういう意味で,企業ガバナンス論は,21世紀に市場経済が民主主義あるいはその背後にある人間社会と折り合いをつけていけるかという,極めて大きな枠組みの中心に据えられるべきものであり,決して「儲けの分け前の行方」というように矮小化して論じる問題ではない,というものである。
 前作では,大金融機関と大企業における株式所有関係や重役兼任関係を通した密室的な取引慣行を素材として,その反「自由企業社会」的な性格を検討した。本稿では,第1に,理念としてのアメリカ・モデルにおいて,透明な企業ガバナンスのメカニズムが奉仕すべき対象として設定される株主の中で,基幹的な労働者を中心とする大衆投資家も大きな比重を占めていることを明らかにし,第2に,その基幹的な労働者の代理人である年金基金等の機関投資家が,そのアメリカ・モデルにおいていかなる役割を要請されているのかを,考察する。
 そして最後に,このような経済社会構造にとっての意味付けを行った企業ガバナンス論の意味を,20世紀の現代史の中で位置付けて考察する。今後の日本や東アジアにおける経済構造改革に対して示されている「アメリカ的な論理」なるものには,本稿でいうアメリカ・モデルの核となるファクターである企業ガバナンス論を視点が欠けていることを指摘する。その含意は,「企業の存在意義と目的は,社会の多数をなす労働者大衆の幸福」であるという最重要な事柄が等閑にされていることへの抗議である。

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