第33号(2001年9月)
ロンドンの日本株取引と不良債権処理問題
代田純(立命館大学教授・当所客員研究員)
- 〔要 旨〕
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ロンドン証券取引所の外国株取引市場であるSEAQインターでの取引は2000年に入ってからも急速に増加している。そのなかで日本株は94年から95年にかけて,SEAQインターでの売買代金ベースで21〜22%を占めていた。90年代後半にややシェアーを低下させたが,2000年には再び10%程度に上昇した。またロンドンでの日本株取引の対本国(東証)比率も98年には10%以下へ低下したが,2001年に入り再び15%に近づいている。
ロンドンの日本株取引の増加をもたらしている要因としては,第一に94年まで日本では固定手数料がとられ,手数料がロンドンよりも高めであったことに加え,有価証券取引税が課税され,売買コストが高めであったことがある。第二に,カストディアン銀行が発達し,決済面からも海外で日本株が売買しやすくなったことがある。
しかしこういった要因からのみで,ロンドンの日本株取引が増加してきたのではない。ロンドンで活発に取引されている日本株の多くはソニー,キヤノンのような国際優良株であるが,不良債権を多く抱えたゼネコン株も部分的に含まれている。熊谷組の場合には,90年代を通じて,かつて大株主であった信託銀行が大幅に保有株を減らしている。また熊谷組による信託銀行株保有も減少している。不良債権処理と深く関連した株式相互持ち合いの解消が,ロンドンでの日本株取引を増加させた第三の要因であろう。こうした持ち合い解消は名義の表面化を避けるため,国内市場よりもロンドンが好まれる。
94年までの固定手数料時代には,ロンドンの機関投資家が日系証券ロンドン法人経由で日本株の売買を発注すれば,手数料が8割となっていた。国内法人が持ち合い解消をはかる場合,特金契約などを介し,ロンドンの機関投資家に名義を変更し,さらにロンドンの日系証券ロンドン法人経由で売買を発注することも行われていた,と推定される。
2001年3月(決算期)においても,ロンドンの日本株取引はかなり増加した。日本の銀行や法人による,不良債権処理と関連した持ち合い解消が,ロンドンで活発化している,と推定される。