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第122号(2023年6月)

MSワラントの資金使途分析
—研究開発型ベンチャー企業のファイナンス—

鶴沢真(下関市立大学経済学部教授)

〔要 旨〕

 本稿はMSワラントで調達した資金の使途について実証分析を行っている。MSワラントは,小型で収益力が低く,情報の非対称性が高いことによる資金調達制約が大きい企業によって利用されている。研究開発費は調達額と正の関係があり,MSワラントを発行していない対照企業との比較分析でも発行後に差があり,かつ高くなっている。実証結果は,銀行融資や公募増資による資金調達が難しい研究開発型のベンチャー企業にとって,MSワラントが有用なファイナンス手段であることを示唆する。
 先行研究で支持されるラストリゾート仮説では,MSワラントは企業と投資家間の情報の非対称性が深刻な財務ディストレス企業によって延命のために利用される。いっぽうで,最後に頼りにする資金という点では同様であっても,資金使途は異なり,事業リスクが高く将来キャッシュフローの不確実性が大きい創薬やITベンチャー等の研究開発に活用される点を本稿の分析は明らかにしている。
 生産性の高いプロジェクトを持つベンチャー企業が,適時に必要な資金をエクイティファイナンスできることは,企業の成長およびわが国経済全体の発展に重要である。公募増資に一定の制約があることを前提にすると,MSワラントには一層の拡大が望まれる。

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