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第114号(2021年6月)

アメリカにおける非公開株式流通市場(セカンダリー・マーケット)について

佐賀卓雄(当研究所名誉研究員)

〔要 旨〕

 アメリカのベンチャー・キャピタル(VC)の投資規模は,プライベート・エクイティやヘッジファンドなど,類似の投資対象に特化している他の業界と較べて決して大きなものではない。しかし,ハイリスクの新規事業の立ち上げを資金的に支援するだけではなく,経営全般へのアドバイスや,自ら経営に参画し事業を軌道に乗せることによって,雇用の創出などの面で投資割合以上にアメリカ経済に寄与している。
 VCの投資活動は,投資案件のスクリーニング(精査と選択),モニタリング(事業の監視),そして投資の回収(エグジット,出口)というサイクルを通じて行われる。各段階はそれぞれ重要であるが,中でもスクーリニングはエグジットの成否を左右するため,極めて重要である。エグジットは,年によって異なるが,1990年代末までは50-80%がIPO(新規公開)であり,IPOは「成功のゴールド・スタンダード」と呼ばれたものである。しかし,その頃から,株式市場ではIPOがほぼ半減し,VCサイクルと呼ばれる循環は大きな岐路に立たされることになった。このギャップを埋めたのが,主として大手ICT関連企業によるM&A(起業の合併・買収)である。しかし,これは新たなテクノロジーの芽をつぐむ可能性があることから競争政策の観点から問題視されている。
 他方では,2014年頃から,IPOの基準を満たしていながら非公開会社に留まる,時価総額が10億ドルを越える「ユニコーン」と呼ばれる企業が増加し,公開会社も半減している。
 これらの企業は非公開であるため,創業以来の経営者や従業員,そしてVCの中には,何らかの事情でキャッシュが必要になった場合に,その株式の流動性に対するニーズが強まった。このような事情を背景に,2010年頃から非公開株式の流通市場が創設されることになった。現時点ではそれほど大きな規模の市場ではないが,ナスダックがその一部を傘下に置くなど,一定の評価を獲得している。これを「第3のエグジット・オプション」と呼ぶ業界関係者もいる。また,自ら非公開株式の売買業務に参入する業者も登場している。
 これらの動向はアメリカ株式市場の変貌過程の一端の現れであり,本稿はその実態を明らかにして意義を検討する。

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