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第78号(2012年6月)

地方債をめぐる自治体間信用連関
―市場公募債パネルデータを用いた実証分析―

田中宏樹(同志社大学教授)

〔要 旨〕

 本稿では,地方自治体の個別発行市場公募債に着目し,その流通をめぐって,自治体間に信用連関が生じているかどうかを,実証的手法をもとに検証した。具体的には,2003〜2008年度における個別市場公募地方債発行18団体のパネルデータを用いて,個別発行市場公募地方債の対国債スプレッドおよび対共同発行公募地方債スプレッドを,個々の自治体の財政状況のみならず,他の自治体の財政状況に回帰させ,パラメータの統計的有意性をみることで,市場公募債における自治体間の信用連関の実態について解明した。
 実証分析からは,①個別市場公募債のスプレッドは,サンプル前期(2003〜2005年度)において,他の自治体の財政状況に影響を受けている,②制度改革が進んだサンプル後期(2006〜2008年度)においても,反応度は低下しているものの,個別市場公募債のスプレッドには,他の自治体の財政状況からの影響が確認される,③2006年度以降,自地域の財政状況に対するスプレッドの反応度は高まっており,市場公募債の利回り決定において,個別自治体の信用リスクが意識されはじめていることが明らかとなった。
 連帯債務方式などを通じ,信用リスクを発行団体間でプールすることを目的とした共同発行市場公募債とは異なり,個別発行市場公募債では,個々の信用リスクをベースに発行・流通条件が確定されるべきである。しかし,本稿の実証分析からは,個別発行市場公募債をめぐっても,自治体間の信用連関の存在が確認されており,自治体の裁量と責任の拡大を図るべく用意された資金調達手段としての個別発行市場公募債の性格付けが,依然として曖昧なままであると考えられる。

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