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第73号(2011年3月) 国債発行・流通市場を振返る

大恐慌と銀行有価証券会計における原価評価の制度化

新祖隆志郎(同志社大学大学院博士後期課程)

〔要 旨〕

 本稿は,今日の有価証券会計を巡る議論を分析するための一つの材料として,1930年代における銀行有価証券会計を取り上げ,そこでの原価評価の制度化の過程とその歴史的意義について考察したものである。
 銀行有価証券会計における原価評価の採用は,大恐慌に先立つ1920年代においてすでに,銀行証券投資の拡大および投機化を背景とした原価評価の相対的優位性の惹起を背景に,個別銀行の会計実務現象として生じるようになった。
 その後,1929年大恐慌を契機に,1930年代を通じて銀行証券投資に対する原価評価の適用が段階的に実施され,1938年に正式に制度化されるに至った。この一連の過程が銀行の自己資本額の維持を目的とした銀行救済政策の一つであったことは言うまでもないが,これ以外の原価評価のもう一つの機能が,証券投資の投機性を会計的に隠蔽しながら銀行による証券投資を持続させることで,銀行証券投資を媒介とした銀行業と証券発行主体(産業界および政府)との間の金融的関係の維持,強化に貢献したというものであった。
 そしてこの後者の点は,景気変動にかかわりない原価評価の普遍的役割を意味するものであり,それゆえに1938年の原価評価への制度転換時には,内在的価値論に基づく固有の会計論理による原価評価の合理化が必要とされた。
 こうした1930年代の歴史的経験は,2008年金融危機後の金融商品会計の新たな動向にも少なからず影響を与えており,その意味で当時の原価評価の制度化過程の分析を通じて得られた認識は,今日の動向を分析する際に有益な示唆を与えているものと考える。

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