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第63号(2008年9月)

証券担保化の抵触法問題とハーグ証券条約

楢崎みどり(中央大学法学部准教授)

〔要 旨〕

 「口座管理機関によって保有される証券に関する特定の諸権利の準拠法に関する条約」(ハーグ証券条約)は,ハーグ国際私法会議において国際証券取引の実務界からの需要に基づいて2年半という短期間で策定作業を終結し,2002年12月13日の第19回外交会議において採択され,現在,各国の調印と批准を待っている段階にある。採択当初は早期の批准が期待されていたが,2006年7月5日にアメリカとスイスが同時に調印した後は,諸国を含めて批准へ向けた動きは出ていない。EUは2006年7月3日にEC委員会がハーグ証券条約に関する評価報告書を取りまとめ,条約批准のための選択肢を示して加盟国による検討を求めた。日本では法制審議会 間接保有証券準拠法部会が2002年7月より条約批准へ向けて審議を行ってきたが,2007年12月21日の第21回会合をもって審議を終了した。
 ハーグ証券条約が策定された背景として,これまでしばしば指摘されてきたのは,証券のペーパーレス化や不動化により,また1990年のG-30提言を受けて,各国で集中型の証券保管機関や証券決済機関が設立され,発行者と投資者との間にピラミッド型の多層構造が形成されたこと,それにより証券市場における証券譲渡や担保提供などの権利移転型の管理が証券発行者の手から離れて中間層の口座管理機関に移管してきたこと,そのため,証券金融実務の側からは口座管理機関にとってのリスクと法的不確実性とをできるだけ縮減するような法制度が求められたこと,これらの点である。こうした証券保有の多層構造ならびにかかる構造を前にこれまでの伝統的ルールが見直される必要性があることは,わが国でもハーグ証券条約の策定を機に幾度も論じられてきたところである。
 本稿は,ハーグ国際私法会議以前に諸国において行われてきた先駆的議論――沿革的にはBIS(国際決済銀行)の下で作成されたシステミック・リスクの報告書を出発点とする――にも目を向けて,条約策定の際に本来の適用対象として考えられてきた証券の担保利用(担保化=Collateralisation)とはどのような形態での証券取引を指し,証券担保化の抵触法ルールがどのような視点の下で諸国において議論されてきたかを考慮して,ハーグ証券条約の適用範囲について若干の検討を行った。例えば,これまでわが国では見過ごされがちであったクロスボーダー決済の円滑化のための証券担保化や,中央銀行によるまたは銀行間での通貨供給のための証券担保化なども条約の射程に入ること,「決済と証券担保化との関係」についての視点がハーグ証券条約の策定作業の議論では希薄化しているように思われること等を取り上げ,日本の今後の対応可能性につきこれまでよりも幅広い範囲での議論を促すことを目的とする。

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