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第56号(2006年12月)

マル優廃止によって家計は証券投資を積極化させたのか?
―家計個票データを用いた1988年マル優改正の分析―

鈴木亘(東京学芸大学教育学部人文社会科学系助教授)

〔要 旨〕

 2006年1月より老人マル優が廃止された。その直接の目的は,税負担の公平確保や課税ベースの拡大等であるが,一部には,個人投資家がこれを機に,証券投資を活発化させるのではないかと期待する見方もある。本稿は,今回の改正効果に対する知見を得るために,1988年に行われた64歳以下のマル優廃止を自然実験(Natural Experiment)として捉え,マル優廃止が家計の資産選択に与えた影響を分析した。具体的には,日本郵政公社郵政総合研究所(旧郵政省郵政研究所)「家計と貯蓄に関する調査」の個票データを用いて,改正の純粋な効果を得るために,差分の差推定(Difference in Difference Model)による分析を行った。その結果,家計は,(1)資産に占める株式の割合を有意に高めてはいない,(2)株式投信・公社債投信(中国ファンドを含む)の割合や一時払い養老保険の割合を有意に高めてはいるが,家計部門全体の影響としては,0.1〜0.8%程度のオーダーに過ぎない,ことが分かった。老人マル優廃止の影響は,今後時間が経つにつれ次第に明らかになると思われるが,制度変化の対象者が1988年時よりも小さいこと,当時の高金利と現在の超低金利という環境差,当時の証券市場の活況と現在の違いなどを考えると,1988年時点よりもさらに影響は小さいものと予想される。

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