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第54号(2006年6月)

IPO市場に関する“賢者君子の世界観”と“俗人の世界観”(下)
―IPOのアンダープライシングに関する情報非対称性理論的説明と現実直視的説明―

テキ林瑜(大阪市立大学大学院教授)

〔要 旨〕

 近年,ベンチャー企業の創生と成長を促進する必要性が高まるにつれ,未公開企業の新規株式公開すなわちIPOのあり方が大きく注目されるようになった。とりわけ,なぜIPOの公開価格が初取引日またはその直後の株価を大きく下回るかというアンダープライシングの問題は多くの関心を惹き,ファイナンス理論におけるホットな研究課題の1つになっている。
 1970年代から新古典派的ファイナンス理論が成熟し,情報非対称性理論も大きく発展するなかで,上述の2つの理論を拠り所とするアンダープライシングに関する研究のほとんどは,株式市場が基本的に効率的市場であるという認識のもとで,情報の非対称性を取り入れてアンダープライシングという現象の説明に努めてきた。前号の本稿(上)では,その着目する情報の非対称性の所在でこれらの研究をシグナリング仮説,逆選択回避仮説,情報顕示仮説とエージェンシー関係仮説に分類し,それぞれの仮説について考察を行った。シグナリング仮説と逆選択仮説は,株式の発行市場と流通市場のいずれも情報効率的な市場で,アンダープライシングはそのような市場の均衡の結果であると捉えている。それに対して,情報顕示仮説とエージェンシー関係仮説は,アンダープライシングを情報保有者への報酬として認識し,それは市場均衡の結果というよりも当事者同士の主体均衡の性格が強いと見ている。
 本稿(下)では,アンダープライシングという“パズル”の解明以外に,米国生まれのブックビルディング方式が,その効率性,公平性と透明性のいずれも原理的には競争入札方式に劣るにもかかわらず,世界中に広がりつつある理由は何か,なぜIPOには引受手数料の高位安定,ラッシュ期と閑散期からなるサイクルと長期的なアンダーパフォーマンス等が観察されるかを問うことが重要であるという考え方を示したうえ,IPOに関する現実的側面すなわちアンダーライターの優位性と投資家や公開企業の限定合理性の視点からこれらの“パズル”を総合的,複眼的に捉えるべきであることを論じる。

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