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第44号(2003年12月)

法人税と所得税の二重課税に関する一考察
―株式非公開企業の租税回避行動―

川口真一(慶應義塾大学大学院博士課程)

〔要 旨〕

 本稿の目的は,株式非公開企業は法人税と所得税の二重課税を回避するために,法人税の対象とはならない役員報酬を利用して利益を分配している可能性があることを示すことにある。分析にあたり,株式公開企業・株式非公開企業の財務データを用いて,これら企業による二重課税の回避行動について検証を行った。
 推定結果から,株式非公開企業のケースでは役員報酬額は法人税額に対して負の変動要因となり,さらに支払配当は役員報酬として分配される可能性が高いことが分かった。すなわち,株式非公開企業は利益を支払配当ではなく,とりわけ役員報酬として分配することによって,法人税の税負担を軽減していると考えられるのである。
 しかし,同じ株式非公開企業間においても役員報酬を利用して税負担の軽減を図れるかどうかなどの差が生じる。そのため二重課税の影響も個々の企業によって異なり,こうした企業間における税の中立性は達成されない。そこで,税の中立性を確保するための措置として,株式公開企業には従来どおりの法人税を課し,株式非公開企業に対してはパートナーシップ型の課税(パス・スルー課税)を行うという株式の流動性を基準とした区分税制が提案できる。このような企業課税が実現すれば,二重課税の回避行動のインセンティブも小さくなり,株式非公開企業間における税の中立性にも資すると考えられる。

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