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第40号(2002年12月) 証券市場の規制を巡って

トラッキング・ストックと事業部門間の利益相反

渡辺宏之(静岡産業大学講師)

〔要 旨〕

 本稿は,近時企業再編のツールとして注目されており,独特な性質を有する株式である「トラッキング・ストック(tracking stock)」の発行に伴う,「事業部門間の利益相反」の問題について考察するものである。
 具体的には,まず,(1)で「トラッキング・ストックの性質と目的」についてアメリカにおける実例を紹介しつつ概観し,(2)において「事業部門間における利益相反」という,トラッキング・ストックに独自の問題を指摘する。そして,(3)では,そうした問題に対する取締役の義務について,二つのデラウェア州判決と,判決において用いられた「信認義務アプローチ」の妥当性を中心に検討する。また(4)では,上記判決において言及された「優先株」および「親子会社」的アプローチについて検討し,一方で,(5)では,最近提唱されている「公正義務」および「類型別」アプローチについて検討する。さらに,(6)では,実務における具体的な手続的保護のあり方を紹介しつつ,「手続の公正」とその限界について考察し,結論として,トラッキング・ストックの発行による「事業部門間の利益相反」は不可避的な問題であり,発行会社の取締役は,新たな「経営戦略の拡がり」と「経営判断の制約」を同時に抱え込むことになることを指摘する。

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