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第38号(2002年7月) ユーロ導入後のEU経済と証券市場

デフレ経済と資金循環
―その態様と問題点―

石田定夫(元明治大学教授)

〔要 旨〕

 この小論は,前稿「90年代におけるわが国資金循環と金融システムの変化」(本誌30号01年3月)に続き,その後発表の統計データによって,現下デフレ局面の資金循環の態様と問題点について考察するものである。以下はその主要論点である。
 (1)資金循環の規模は90年代を通じて景気低迷に沿って趨勢的に縮小してきたが,最近数年間は経済のデフレ化を映じて,さらに縮小の動きが強まったようである。資金循環の縮小はもっぱら銀行貸出の減少によるものであり,この点は前稿で指摘した。
 (2)国内非金融部門(企業・政府・家計)の資金調達(フロー)面では,金融機関借入の減少に代って国債発行が著増し,「国債新時代」と呼ぶにふさわしい状況となった。部門別には企業の資金調達は4年連続純減しており,政府は経済全体の資金量の100%以上を調達吸収してきた。
 (3)国内非金融部門の資金運用(フロー)面では,現金預金の増加が主体であるが,00〜01年はペイオフ対策等から定期性預金・郵便貯金から流動性預金へのシフトが目立ち,保険年金の払込みも若干減少した。証券投資は総じて低調であるが,01年には国債運用が増加した。
 (4)マネーサプライ統計によれば,最近数年間のM+CDの増加は年率2〜3%で,おもに銀行の国債引き受けと対外資産の増加によって賄われた。銀行貸出は純減し,むしろ通貨供給の減少要因となった。およそ経済活動に必要な預金通貨の供給は,銀行の対企業貸出によって行われるのが通常の姿であり,それがおもに銀行の国債引き受けによって行われて,貸出が純減した状況はデフレ局面の特異な動きというほかない。
 (5)こうしたデフレ経済の様相は最近4年間(98-01年)「部門別資金過不足」バランスの動きに集約してみられる。企業部門の資金余剰,政府部門の資金不足がともに増加の方向にあり,家計部門の資金余剰は減少の傾向にある。これはそれぞれ企業投資活動の沈静,財政赤字の拡大,家計貯蓄の伸び悩みを示すものである。この間,海外部門の資金不足(わが国経常収支黒字)の対GDP比は2%の水準を保っている。
 (6)資金循環フロー面の縮小を映じて,90年代の金融ストック増加率はきわめて低く,国内非金融部門の金融資産残高は年率2.2%,金融負債残高は1.9%(名目GDP1.3%)にとどまった。90年代はバブル期を含む80年代の急膨脹(金融資産11.8%,金融負債9.5%,名目GDP5.9%)に対する調整期であったといえよう。主要項目では現金預金保有残高3.3%(80年代8.8%),民間金融借入残高-1.3%(同9.8%),国債発行残高10.1%(同9.2%)である。
 (7)最後に「資金循環の図式論」の視点からみると,銀行貸出の減少(第1過程)を主軸に資金循環の規模が縮小したなかで,大量発行の国債は金融超緩和のもとで金融機関を中心に経済全体にわたり,ともかくも引き受けられ消化されてきた。日銀のゼロ(低)金利・量的緩和政策(第5過程)の効果は,銀行貸出(第1過程),景気回復(第2過程)には現われていないが,国債市場(第3・第4過程)に対しては市場関係者の心理に微妙な影響を与え,これまで国債の需給均衡の持続,国債価格の安定に寄与してきたとみられる。「国債新時代」に入り市場の動向が注目され,今後は国債管理が重要性を増すことになろう。国債の問題も資金循環のフローとストックが交錯するその全領域において検討されるべきであると思われる。

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