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第35号(2002年1月)

配当再投資・株式購入プランと情報の非対称性

森直哉(同志社大学大学院)

〔要 旨〕

 近年,米国の企業では配当再投資・株式購入プランが活発に実施されている。一般に,証券投資の観点からは売買委託手数料を節約できる株式購入法,企業財務の観点からは引受手数料を節約できる資金調達法と認識されているようである。また,時価公募増資のもとでは投資プロジェクトの機会損失が発生する可能性があるが,配当再投資・株式購入プランは財務スラックとして機能するため,過小・過大評価による逆選択コストを回避できるとも評価されている。
 しかし,これらの見解は株式購入プランについては妥当するものの,配当再投資プランに関しては疑問であると言わなければならない。特に割引発行についてはパズルである。利益留保を最優先するかぎり,過小・過大評価による富の移転ばかりではなく,割引発行による富の移転も同時に回避できるはずである。したがって,なぜ配当を宣言してまで割引発行によって再投資させようとするのかを合理的に説明できないのである。むしろ,配当再投資プランを実施しようとする根拠は,個々の株主が選好に応じて受取配当金(キャッシュ)と配当再投資(ストック)の割合を自由に設定できる柔軟性にあると考えられよう。
 もし逆選択を気にかけるのであれば,あくまでも利益留保を最優先すべきである。そうではなく株主の選好を気にかけるのであれば,あくまでも無割引型の配当再投資プランを実施すべきである。いずれにしても,割引型の配当再投資プランに合理的説明を与えることは困難である。近年,割引発行が沈静化してきた傾向は,本稿のフレームワークにおいて何ら不自然な現象ではないのである。

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