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第21号(1999年9月)

マレーシアの通貨危機と政府の対応

岸脇誠(大阪市立大学大学院)

〔要 旨〕

 1997年7月にタイで発生した通貨危機は瞬く間にマレーシアへ伝染し,経済成長を失速させた。景気後退に伴う経済全体のパイ縮小は,ブミプトラ政策の根幹を揺るがしかねないだけに,マハティール首相にとっては見過ごすことのできない問題であった。マハティールは通 貨危機の元凶としてジョージ・ソロスを名指しで批判し,最終的には固定相場制,資本規制の導入へと踏み切った。いわば市場と敵対しながら通 貨危機の収束を図ろうとするマハティールの姿勢は,IMFのプログラムに沿って経済改革を進めてきたタイや韓国の場合とは対照的なものである。本稿では,このようなマハティール流の独自路線が選択された背景を理解するために,IMF型の緊縮政策とブミプトラ政策の間で揺れ動いたマレーシア政府による通 貨危機への対応策を検討している。
 通貨危機の発生から丸2年が経過し,アジア経済は最悪期を脱し,底を打ったと見られている。アジアから一斉に流出した資金は環流し始め,各国の株式相場は上昇に転じている。しかしながら,マレーシアの採った固定相場制と資本取引規制が景気回復にどの程度の効果 をもたらしたのかは定かではない。なぜなら,為替ならびに資本の規制なしで経済改革を進めたタイ,インドネシア,韓国でも同様に株式相場は上昇し,為替相場も回復しているからである。マレーシアの採用した独自路線の成果 が問われるのはむしろこれからであると言えよう。マレーシアが近い将来に再び国際金融市場との結びつきを強めたとき,経済はどのような影響を受けるのか,今後の動向が注目される。

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