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第20号(1999年7月)

チリ年金制度改革と証券市場

斉藤美彦(広島県立大学助教授)

〔要 旨〕

 近年における少子高齢化の進展は,賦課方式の公的年金制度の将来の不安を呼び起こしている。高齢者の増加は,現役世代の年金保険料の耐えがたいまでの増大へと結びつくのではないか,それを避けようとするならば年金の給付水準の低下は認めざるをえないのではないかとのものである。
 賦課方式の公的年金制度に不安があるのであれば,それを解決するための方策として,年金制度の財政方式を積立方式にし,さらに民営化すればよいようにも一部では思われている。この方式とした場合,いわゆる世代間戦争は回避できる。実際に,このような形で年金制度の改革を1980年代の初頭において行った国がある。それが南米のチリであり,1990年代には他のラテンアメリカ諸国へとチリの制度改革は波及してきている。世界銀行もまた,チリの制度をモデルとしつつ高齢化に対応した年金制度改革の提案を行っている。
 本稿では,チリにおける年金制度改革について検討し,まずそれが旧制度の行き詰まりおよびピノチェト軍事政権のイデオロギーによる面 が大きかったことを明らかにした。さらに年金制度改革が,証券市場の発展へと結びつき,その形成する好循環は,年金基金の運用にもプラスに働いたことを明らかにした。
 他方,チリにおいてもいわゆる「二重の負担」の問題は顕現化し,財政上の負担は大きなものとなっている。チリにおいては制度改革時の財政は黒字であり,制度改革による種々のプラスがこの負担を一応吸収し得たわけであるが,これは一般 化することはできない。また,新制度が本当に将来の十分な給付に結びつくか不透明である点,そのカバーする範囲が狭いことも問題であり,チリの制度改革が成功したか否かは,もう少し長期の観察の後に判断することが適当であろう。

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