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第119号(2022年9月) テクノロジーと金融革新に関する研究会特集号

情報通信技術(ICT)の革新と証券取引規制

大崎貞和(野村総合研究所未来創発センター主席研究員・東京大学客員教授)

〔要 旨〕

 株主権や貸付債権といった抽象的な権利を表章する有価証券の取引は,物の取引以上に,デジタル情報をやり取りするICTになじみやすく,証券取引におけるICT利活用の歴史は古い。その歴史は,1990年代半ばにインターネットを利用した証券取引が可能になったことで新しい段階に入った。すなわち,それまでは証券会社や機関投資家など限られたプロだけが享受できたICT利活用のメリットが,個人を含むすべての市場参加者にもたらされることになったのである。更に2010年代にはスマートフォンがインターネット接続の主要なデバイスとなったことで,フィンテックと呼ばれる新たな金融ベンチャーが勃興することになった。
 現在の主要市場における証券取引規制は,1930年代のアメリカで確立されたモデルに基づくものだが,ICTの革新に対応するために細部の見直しが常に行われてきた。フィンテックの時代を象徴する規制見直しの一つが,2012年以降の株式投資型クラウドファンディングをめぐる規制改革である。アメリカと日本における規制改革の焦点は,ファンディング・ポータルと呼ばれる仲介者の参入規制緩和であり,株式投資型クラウドファンディングの定着という点では,一定の効果を発揮したように思われる。他方,これまでのところ,この規制緩和が投資家保護の水準を低下させたと考えるべき明らかな根拠はないが,投資家保護と資金調達者や仲介者の規制遵守負担のバランスを保つことは,今後とも重要な課題となろう。

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