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第108号(2019年12月)

金融危機後の米国社債市場の流動性をめぐる議論について

小林陽介(当研究所研究員)

〔要 旨〕

 リーマンショック以降の米国証券市場をめぐるトピックの中で注目を集めているものの一つに社債市場の流動性をめぐる議論がある。金融危機の発生を契機としてバーゼルⅢやドッド・フランク法等の規制強化が進められたが,そうした規制強化によって社債ディーラーである金融機関はマーケットメイクを行う余力を低下させ,それらの社債保有額は大きく低下した。その結果,社債市場の流動性が悪化したのではないかとする指摘が主として市場参加者や実務家より提示されている。これに対して,学術的な観点から行われた研究の多くは,ビット・アスク・スプレッドやプライス・インパクトといった価格ベースの指標を用いて流動性の状況を検討し,結論として流動性悪化を支持する明確な証拠は得られなかったことを報告している。
 多くの研究が示唆するように社債市場の流動性が実態として低下していないとすれば,ディーラー金融機関の社債保有額の減少を補完するような何らかの要因が作用している可能性が考えられる。その要因としては,ディーラー金融機関の仲介行動の変化,電子取引プラットフォームの台頭,投資信託およびETFによる社債保有の増加などがあげられる。各要因がどの程度で市場流動性に貢献しているかは明確ではないが,金融危機後の米国社債流通市場は,多様な主体が参加し,それらがネットワークを形成することで全体として流動性供給を担うような構造に変化している可能性は指摘できよう。

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