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第111号(2020年9月)

フィンランドにおける2012年資本所得税改革と再分配効果

野村容康(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿では,2012年にフィンランドで導入された資本所得に対する累進課税に注目し,この新たな税制が,改革の目的である所得再分配機能の強化にどの程度貢献したのかについて,主にStatistics Finlandの所得階級別データを利用して検証した。
 分析の結果,所得税全体の再分配効果(レイノルズ=スモレンスキー係数)は,2010年代を通じて僅かながら上昇しており,そのほとんどが資本所得税によるものであった。資本所得の平均実効税率も,この間確実に高まっており,この点で,2012年の改革は,個人の資本所得課税の強化には一定程度つながったとみることができる。
 しかしながら,資本所得税の累進度(カクワニ係数)についてみると,2012年を挟んで明らかに下がっており,この税の直接的な再分配効果は必ずしも改善されたとはいえない。そうした背後には,異時点間における実現キャピタルゲインの調整を通じた,高所得層による租税回避行動があったことが想定される。特に,短期的な効果として,改革前後に最高所得層における資本所得税の実効税率がほとんど変化しなかったことは,付加的な超過累進税率によってこの税の再分配機能を高めるには一定の限界があることを示唆している。その意味で,この種の税制をより慎重に見極めるには,所得分配面での分析にとどまらず,他方で,中立性の観点から,個人と法人の行動に与える影響を検証して,その超過負担の実態を明らかにする必要がある。

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