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第97号(2017年3月) 公社債市場を取り巻く課題

わが国における法人実効税率の決定要因
—東証一部上場企業パネルデータを用いた分析—

野村容康(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 本稿では,個別企業のパネルデータを用いて,最近におけるわが国法人所得課税の実効税率がどのような要因によって決定されるかについて検証を試みた。分析対象としたのは,2012〜15年までの金融機関と電力・ガス会社を除く東証一部上場企業525社であり,企業規模,資本・資産構造,収益性,成長性,繰越欠損金,研究開発費,海外売上等の要因を考慮して,税額をキャッシュフローおよび課税前所得で除した2種類の実効税率について,それぞれ固定効果モデルに基づき推計を行った。
 分析の結果,企業間における実効税率の差異は,所得控除に起因する要素を除けば,各社固有の個別効果に加えて,企業規模,収益性,成長性といった特性によって決まり,とりわけ収益性という要素が企業の租税回避行動と強い関係にあることが示唆された。一方,企業の研究開発や海外での事業展開といった,租税節約につながりやすい活動と実効税率との間には直接的な関連を確認できなかった。しかし,これにより両者の関連性が,租税政策上重要でないということにはならない。経営資源が豊富で,また収益性の高い企業ほど,そうした活動に積極的に従事し,税負担軽減の恩恵を受けていると想定されるからである。その意味で,わが国における法人税負担のさらなる公平性と中立性を追求するにあたっては,国外所得の課税漏れや租税節約を狙いとした海外への所得移転を防止するのはもちろん,研究開発税制など単なる租税回避手段に利用されかねない特例に関して,その政策効果を見極めながら可能な限り縮小・廃止していくべきである。

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