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第84号(2013年12月)

ソーシャルインパクト債と社会貢献型投資の評価手法

松尾順介(桃山学院大学教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕

 近年,世界的にソーシャルビジネスや社会貢献型投資に対する関心が高まっている。日本でも,すでに拙稿で紹介したように,各種の再生可能エネルギーファンドや農林業ファンドなどが設立されている。また,内閣官房地域活性化統合事務局でも「ふるさと投資プラットフォーム推進協議会」が設置され,このような投資を支援する試みが進められた。また,米国では,ダブル・ボトムライン投資ファンドが設立されるなど,このような動きは海外でも様々な事例がある。
 本稿では,前半のⅠにおいて,米英で起債された,ソーシャルインパクト債について考察する。ここでいうソーシャルインパクトとは,社会に対する積極的な貢献を指すものであり,2012年8月,米国ニューヨーク市でゴールドマン・サックスが全米初とされる,ソーシャルインパクト債を起債し話題を呼んだ。同社のソーシャルインパクト債は,刑務所の受刑者に更正プログラムを施し,それによる再犯率低下を社会的リターンとして評価し,資金提供者に還元するというスキームであり,注目された。このようなソーシャルインパクト債は,英国でも起債例があり,その内容が報告されている。したがって,これらの投資スキームについて考察する。
 さらに,このような社会貢献型投資にとって重要な課題は,それぞれの投資がどの程度社会的貢献を果たしているかどうかという点である。そのためには,投資効果が客観的・定量的に測定・評価されなければならない。この評価が曖昧なものであると,投資が出資者や運用者の主観的な自己満足だけのものに終始する可能性や,詐欺的な運用者が善意の出資者から資金を集めるようなスキームが横行する危険性も考えられる。逆に,投資効果を客観的・定量的に測定・評価することで,投資スキームに対する信頼性も向上し,投資の拡大・発展にも寄与するものと考えられる。したがって,後半Ⅱでは,このような社会貢献型投資の投資効果を客観的・定量的に測定・評価する試みとして,社会的投資収益率の考え方を紹介し,具体的にダブル・ボトムライン投資に当てはめて検討する。
 最後に,このような投資スキームにおいて検討されるべき課題として,①評価・開示のコスト負担,②評価担当機関のあり方,③評価基準・手法のデファクト・スタンダード化を指摘する。

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