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第49号(2005年3月) 国債問題と市場の活用

通常の証券化,事業の証券化と間接金融

深浦厚之(長崎大学教授)

〔要 旨〕

 本稿は最近耳にする機会が多くなりつつある事業の証券化(Whole Business Securitisation)の構造と,それが伝統的な証券化とどのような点で異なっているのか,そしてその相違はどのような意味を持っているのか,についての初歩的な議論を展開することを目的としている。事業の証券化はこれまでの証券化の概念に大きな変化をもたらす可能性があるのではないかといわれているが,このようにして事業の証券化の特徴・構造を考察・整理することは証券化市場の今後の展開を予測する助けとなるだろう。
 分析は簡単なケースに限定されるが,両者の構造を整理すると多岐にわたる相違点を確認することができる。中でも譲渡資産の性格・オリジネータ・SPVの機能に関する違いが重要であることが理解されるだろう。その意味では,これまでの証券化の公式をそのまま当てはめるだけでは事業の証券化の姿を理解することはできない。
 そのような違いはWBSがこれまでの金融手法がカバーしてこなかった領域を取り込んだ手法であることに由来している。企業ファイナンスの手法のうち,社債発行や銀行借入が企業の継続性を重視した手法であり,通常の証券化が保有する資産の自立的な収益生成力に基づく手法であるとすれば,事業の証券化は企業の継続性と保有資産の収益力を結合させたファイナンス手法と位置づけることができる。
 同時に,貸出債権というデバイスを用いていることは,事業の証券化には伝統的なcorporate financeの要素が強く反映されているとも評価することができるだろう。こうしたことは資産金融業務と銀行を中心とする間接金融機関の近接という近年の現象を強く反映するものであり,この意味で事業の証券化はこれまでの証券化の概念をブレイクスルーしたというよりは,間接金融の技術と証券化の技術の新たな組み合わせとして登場したと考えるべきである。

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