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第43号(2003年9月)

アルゼンチン経済危機とIMF
―カレンシーボード制の功罪―

毛利良一(日本福祉大学教授)

〔要 旨〕

 新自由主義路線による経済改革と「カレンシーボード」制の採用によって,アルゼンチンは,1990年代には,インフレの収束と物価の安定および高度経済成長を謳歌する「ラテンアメリカの優等生」となり,テキラ危機,アジア危機の伝染も最小限の影響で食い止めた。しかしアジア危機後の交易条件の悪化,とりわけアルゼンチン輸出主力国際市況商品の価格下落,99年1月のブラジル・レアルの切下げと米ドルの高騰,国際資本移動の流入停止から流出への変化,金利スプレッドの拡大,2001年に始まるアメリカおよび世界経済の景気後退のなかで,アルゼンチン危機は深刻な局面 を迎えた。
 1999年からは4年連続マイナス成長となり,経済競争力の低下,財政赤字の拡大,金融システム脆弱性の表面 化のなかで,2001年末には対外債務不履行,銀行預金の凍結に追い込まれた。首都は街頭抗議行動や騒乱・略奪で荒れ,アルゼンチンの経済・社会・政治危機は深刻化した。2002年初頭,アルゼンチンは兌換制とカレンシーボードを廃止し,フロート制に移行,ペソは3分の1以下に減価した。またドル建て預金・貸付の非対称的なペソ化が行われ,多くの企業や銀行が為替差損をこうむった。不況とインフレの同時進行が再来し,失業率は22%と過去最悪を記録した。壮大な実験は終わったのである。
 小論では,以下の点に注目しながら,アルゼンチン経済危機の原因と展開を考察する。

1991年に制定された「兌換法」「カレンシーボード」の仕組みと功罪。
経常収支赤字の背景,ファイナンス,債務危機管理。
IMFが重視する財政赤字の要因分析。
1998年にエマージング市場第2位と評価された銀行健全性規制システムにもかかわらず,01年末に銀行預金凍結という事態に追い込まれた理由。
IMFの対アルゼンチン金融支援の評価。

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