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第29号(2001年1月)

中国国有企業のニューヨーク上場

王東明(大阪研究所主任研究員)

〔要 旨〕

 本稿の目的は,1993年からスタートした中国国有企業のニューヨーク証券取引所(NYSE)上場に焦点をあて,なぜ世界最大の資本主義国アメリカの資本市場で現在残った最大の社会主義国・中国の国有企業が上場を実現したのか,その背景とプロセスを考察することである。そして,益々拡大している米中の経済関係と中国のWTO加盟後の国際経済への融和という視点から,中国国有企業のニューヨーク上場の意義を探って見たい。
 まず第I節では近年拡大している米中の経済関係に触れ,両国の接近について,中国側は貿易・投資の拡大と世界最大の資本市場を利用することが狙いであったが,一方,米国側にとっては輸出拡大と雇用の増加,「中国は究極の成長市場」であることから両国の共通の利害関係があった背景を紹介する。
 第II節でADR(米国預託証券)の仕組みを紹介し,その発展状況を概観する。
 そして第III,IV節では中国企業の海外上場の状況を紹介した後,海外上場の一環としてのニューヨーク(NYSE)上場をまとめ,ADRの発行,資金調達,取引および企業業績を整理し,併せて一部企業のM&Aと重複上場による内外株価の差という現象を紹介する。そして外国の上場基準,情報開示,会計制度およびコーポレート・ガバナンスなどの問題を取り上げ,ニューヨーク上場および他の海外上場は国有企業の制度改革にどのような影響を与えているのかを,中国企業の学習効果から考える。
 第V節は中国のWTO加盟と金融・資本市場の開放を取り上げ,WTO加盟のメリットとデメリットを検討し,加盟後の外資系銀行業務と保険業務の参入および資本市場の開放による影響を紹介する。
 最後に,中国の資本市場はどこまで開放できるのか。中国経済の市場化と世界経済のグローバリゼーションの進展という変革の波の中に,資本市場の役割と国有企業制度改革と関連して,今後の市場開放と海外資本市場の有効利用という観点から,ニューヨーク上場のインパクトを考察する。

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