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第25号(2000年5月)

カバード・ワラント
―隠れた成長商品―

吉川真裕(大阪研究所主任研究員)

〔要 旨〕

 株式発行企業によってではなく,第三者によって発行されるワラントはカバード・ワラントと呼ばれており,近年急速に市場規模を拡大している。その商品特性は基本的には通 常の個別株オプションと同じであるが,満期までの期間が9カ月から2年程度と長いことが特徴となっており,ドイツ,スイス,フランス,イタリア,スペインといったヨーロッパ大陸諸国や香港,シンガポールといったアジア諸国では個別 株オプション市場を上回るほどに活発に取引がおこなわれている。
 リスク・ヘッジ手法に応じてカバード・ワラントの発行形態をみると,保有株式を用いた発行,既発ワラントのリパッケージによる発行,ダイナミック・ヘッジによる発行,という3つの形態が存在し,歴史的にもこの順番でカバード・ワラントは発行されてきた。1980年代後半にみられた日本企業のドル建てワラント債のリパッケージによるスイス・フラン建てカバード・ワラントの大量 発行の後,1990年以降,日本企業の株価が下落基調に入り,ワラント債の発行も激減したことからカバード・ワラント市場も衰退するものと思われた。しかし,カバード・ワラント市場はその後に本格的な成長期を迎えることになった。
 一般の投資家がワラントを容易に購入するためにはその国の証券取引所に上場されていることが必要となるが,各国の上場基準にはかなりの隔たりがある。概して上場基準が緩やかでワラント取引が活発におこなわれているヨーロッパ諸国から,厳しい上場基準によってほとんど国内でワラントの取引がおこなわれていないアメリカまで,ワラント取引の出来・不出来は規制の厳しさの裏返しとなっている。
 カバード・ワラント市場の拡大を支えた一方の要因は投資家サイドの需要であり,多様な商品特性と個別 株オプションに比べた場合の流動性の高さにその原因がある。他方,カバード・ワラント市場の拡大を支えたもう一方の要因は発行金融機関サイドの供給能力であり,債券や為替市場で発達したダイナミック・ヘッジの手法を採り入れてポジション・ヘッジをおこなえるようになった点が大きい。今後もさらにこの市場の拡大は続いていくものと考えられる。

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