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第24号(2000年3月)

グラス・スティーガル法以前の銀行の証券取引に関する法制度

高月昭年(明海大学教授)

〔要 旨〕

 米国では,1999年11月12日,通称グラム・リーチ・ブライーリィ法が成立,これによってグラス・スティーガル法が一部改正され,銀行と証券の相互参入が実現した。しかし,「銀行,証券会社,その他金融サービス供給者の関連会社化のため賢明な枠組みを設定することによって金融サービス産業の競争を強化すること,およびその他目的のための法律」という,この法律の正式名称が示唆するように,改正法の目指す枠組みは,持株会社の下での相互参入であり,銀行本体による証券業務の自由化ではない。この点で,ヨーロッパ型のユニバーサル・バンキングとは一線を画すものである。ところで,銀行本体による証券業務を規制する,法的な根拠は何であろうか。まず念頭に浮かぶものは,グラス・スティーガル法16条である。
 しかし,それでは,グラス・スティーガル法制定以前においては,銀行の証券業務は自由だったのであろうか。否である。その根拠は,1864年の国法銀行法と判例理論である。国法銀行法には,銀行の証券業務に言及する規定はなかった。法律の沈黙であるが,この沈黙の意味を巡り,銀行の証券業務は原則的に認められていないとの,判例理論が蓄積されていった。例外は,国債や地方債など負債性証券の売買である。これらは,国法銀行法が認める「その他債務を証明するもの」の割引や譲渡に該当するものと解釈された。国法銀行法以降,銀行の証券業務に関する重要な立法としては,1927年のマクファーディン法,1933年のグラス・スティーガル法,1935年銀行法,1999年のグラム・リーチ・ブライーリィ法があるが,国法銀行法下で形成された枠組みは,今日に至るまで基本的に維持されている。この判例理論を踏まえることなく,グラス・スティーガル法を議論することはできない。

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