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第134号(2026年3月)

東京証券取引所再編における経過措置の選別効果:イベントスタディによる検証

青野幸平(立命館大学経済学部教授)
堀敬一(関西学院大学経済学部教授)

〔要 旨〕

 本稿は,2022年4月の東京証券取引所市場再編において導入された経過措置の必要性を実証的に検証した。旧市場第一部上場企業のうち296社が,プライム市場の上場維持基準を満たさないにもかかわらず,2025年3月までの経過措置適用を受けてプライム市場への上場を継続した。本稿は,この経過措置が市場メカニズムの中で潜在的に基準達成可能な企業を選別する役割を果たしたか否かを検証するため,「経過措置の選別効果仮説」を提示し,多面的な実証分析を行った。
 分析では,2022年1月11日の経過措置適用企業公表をイベント日とするイベントスタディを実施し,Fama-French 3ファクターモデルによる累積異常収益率(CAR)を計測した。次に,CARと上場維持基準からの乖離度を示す5つのGAP変数(株主数,流通株式数,流通株式時価総額,売買代金,流通株式比率)との関係をクロスセクション回帰分析により検証した。さらに,2023年10月時点での実際の市場区分とCARの関係をロジスティック回帰モデルで分析した。
 実証結果は,経過措置の選別効果仮説を支持しなかった。第1に,CARは上場維持基準からの乖離度(GAP変数)と有意な関係を示さず,むしろ売上高成長率や企業規模といった要因と強く相関していた。第2に,あるイベントウィンドウで計算されたCARのみ事後的な市場残留との相関が確認されたが,全体として投資家は上場維持基準以外の情報に基づいて企業を評価していたことが示唆された。
 これらの結果は,投資家が経過措置適用以前から既に企業の質を識別できていたことを示しており,Aono and Hori(2025)の知見と整合的である。したがって,経過措置は市場の選別機能を補完する役割を果たさず,その必要性には疑問が残る。本稿は,将来の市場制度改革において,単純な猶予期間の設定ではなく,市場メカニズムをより活用した制度設計の重要性を示唆している。

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