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第134号(2026年3月)

韓国における支配株主と少数派株主のエージェンシー問題と法的対応
―取締役の忠実義務をめぐる議論の展開と改正法の射程―

高逸薫(当研究所研究員)

〔要 旨〕

 本稿は,韓国資本市場における構造的な課題とされる支配株主による私益追求(トンネリング)を背景に,2025年に断行された韓国商法改正,とりわけ取締役の忠実義務条項の改正が持つ法的意義とその限界を検討するものである。
 従来の韓国商法の解釈論において,取締役の義務の対象は「会社」という法人格のみに限定されていたため,合併や分割といった資本取引の局面で生じる株主間の富の移転問題を実効的に規律することが困難であった。これに対し改正商法は,忠実義務の対象として「株主」を明記するとともに,「全体株主の公平な取扱い(Fair Treatment)」を取締役に義務付けた点に特徴がある。
 さらに,今回の改正は,善管注意義務と忠実義務を事実上同質のものとして把握してきた従来の解釈論を再検討させる契機となる可能性を有する。すなわち,利益相反状況においては,英米法上の「完全な公正(entire fairness)」基準を参照した独自の審査枠組みを導入し得る解釈上の余地が開かれたと評価し得る。
 もっとも,改正法もなお取締役の責任を媒介とする規律構造を維持している以上,支配株主本人に責任を直接帰属させることには構造的な制約が残されている。本稿では,2025年改正を韓国における企業統治改革の重要な出発点と位置づけ,取締役責任を通じた規律の現状と限界を明らかにした上で,支配株主に対する直接的な規律の在り方を含む今後の制度的展望を提示する。

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