第133号(2026年2月)アジア資本市場研究会特集号
公的債務不履行の実証分析・動学モデル・スリランカ
-構造変化に強靭な国内証券市場の有効性-
木原隆司(NIRA総合研究開発機構評議員)
- 〔要 旨〕
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高金利・高インフレ・トランプ関税等の「構造変化」により途上国の公的債務不履行が懸念される。本稿では,債務不履行発生リスクや債務不履行規模の決定要因,成長率への影響等の実証結果を示すとともに,銀行等の「金融機関」の深化が債務不履行時に成長率を有意に低下させるのに対し,「証券市場」の深化は債務不履行規模を縮小し成長率を有意に高めるという,木原(2023)の実証で得られた「非対称性」のメカニズムを示すモデルとして,Mendoza and Yue(2012)の動学的一般均衡モデル(MYモデル)を検討した。MYモデルでは,債務不履行に陥った政府は国際金融市場から排除され,輸入投入財を調達する「運転資金」の外貨融資が得られないため,「生産」減少等の実物効果が増大するという「金融拡張メカニズム」が働く。他方,運転資金「外貨融資」を「証券発行」による自己資金等で代替し,また国内「証券市場」で外貨が必要ない投入財や国内投入財をより多くファイナンスできれば,債務不履行リスクや債務不履行の成長率低減効果を緩和できる可能性がある。
更に,近年初めて債務不履行に陥ったスリランカの実態を例にとり,実証結果や理論モデルとの整合性を検討した。その結果,債務不履行の発生要因と道筋,債務不履行後の景気動向,債務不履行リスクを高め景気を低迷させる金融・資本市場構造等が実証・理論モデルと整合的であり,スリランカは債務不履行リスクが高く景気低迷が大きい条件に合致していることを確認した。