第132号(2025年12月)資本市場・企業統治研究会特集号
IPOの公開規模・公募比率と上場後パフォーマンス
―日本株式市場における実証分析―
岡村秀夫(関西学院大学商学部教授・当研究所客員研究員)
- 〔要 旨〕
-
本稿では,グロース市場における上場維持基準見直しをふまえ,マザーズ・グロース市場におけるIPOに焦点を当て,公募・売出状況の整理,IPO後の成長性の計測,公募比率と成長性の関連について分析を行った。それらの結果から,近年の日本のIPOは,「売出主導」「小型」「高い初期収益率」といった特徴を有していることが明らかになった。加えて,公募中心のIPOでは,IPO時点からの時価総額倍率で計測した成長性が高いことも確認できた。
分析結果から,第一に,日本のIPO市場の特徴として,初期収益率の高い小規模IPOが多数を占めていることが確認された。次に,IPOの中心的存在であるマザーズ・グロース市場において,「売出主導型IPO」の割合は増加傾向にあり,2014年以降(2018年を除いて)常に50%を上回っていることが明らかになった。スタートアップ投資のExitとして,既存株主の売出のためのIPOが一定数を占めている可能性が示唆された。
BHAR(対TOPIX)の計測結果から,全般的な長期株価パフォーマンスの低迷傾向が改めて確認された。一方,公募比率によるBHARの差異については,一部を除いて統計的に有意な結果は確認できなかった。
時価総額倍率の推移からは,「公募比率50%以上」が「公募比率50%未満」を統計的に有意に上回っているケースを多数確認することができた。すなわち,「売出主導型IPO」よりも公募中心のIPOの方が長期の成長性は良好であることが分かった。そして,規模の小さいグループの方が時価総額倍率は高い値を示していることから,公募中心で小規模なIPOであるほど,時価総額倍率で計測した成長性は高いことが明らかになった。また,一部の企業は非常に高い成長を果たしていることが示唆された。
グロース市場における上場維持基準見直しに際して,新規上場基準については据え置く方針が伝えられている。小規模で成長性の高いIPOを受け入れつつ,売出中心のIPOへの適切な対応が必要と考えられる。
その他の記事
- 経済政策不確実性と企業ディスクロージャーが株価同期性に与える影響
-
不良債権問題下のメイン寄せと非メインバンクの融資回収
―西日本銀行と福岡シティ銀行の事例― - 自社株買いにおける事実上の相対取引の買付手法選択要因
- Going-Private Transactions and Ex-Post Firm Behaviors: Evidence from Japanese Management Buy-outs
- 新規上場子会社と初期収益率:親会社の「保証効果」と「搾取効果」をめぐって
-
ベンチャー投資における「種類株式」の実証分析
―権利の設定と投資インセンティブ― - 新規株式公開のアンダープライシングに対して,仮条件範囲外での公開価格の設定が与える影響
- COVID-19危機下における日本企業のESGパフォーマンスと株式リターン
-
欧米大手銀行における投資銀行部門の課題
―欧米間の業績格差と欧州大手銀行の展望― - ROICとWACCを用いた事業ポートフォリオ評価(バリューマップの活用法)
- 金融システムが経済成長に与える影響に関する実証分析
- 日本企業の公募増資と会計情報の質