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第131号(2025年9月)

SECの規則策定における経済分析の再考:制度的変容と司法審査の交錯

若園智明(当研究所理事・主席研究員)

〔要 旨〕

 本研究は米国証券取引委員会(SEC)の規則策定における経済分析の意義と限界を再検討し,近年の政治的・司法的環境の変化が与える影響を分析する。
 2011年の敗訴を契機にSECは経済分析の体制と実務ガイドラインを整備し,規則策定の透明性と正当性を強化した。しかしながら,2024年の連邦最高裁判所によるシェブロン法理の否定やトランプ2次政権下の大統領令により,SECの規則策定はかつてないほど厳格な司法審査の対象となり,大統領府の監督を受ける可能性もある。
 ゲンスラー前SEC委員長の時代には自主的に策定された規則が増えており,複数の規則が経済分析の不備や議会の授権欠如を理由として裁判所により無効化されている。政治的動機が優先されたとの批判もある。特に本研究で取り上げる気候変動リスク情報の開示規則は,市場の失敗分析や定量的根拠が不十分とされ,規制正当化の形式主義に陥った面が否定できない。
 証券市場の専門知識を持たない司法が過度に市場規制に介入することは,市場機能に悪影響を及ぼす恐れがある。社会的に必要な規則であるのにもかかわらず,裁判所により規則が無効化されたと批判された裁判例もある。SECにとって,経済分析のさらなる発展とともに,法的リスクに備える体制強化が喫緊の課題となっている。

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