第130号(2025年6月)
バリューモデルに基づくESG評価におけるアウトカム指標の分析
中尾悠利子(関西大学総合情報学部教授)
國部克彦(神戸大学大学院経営学研究科教授)
須貝フィリップ(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)
- 〔要 旨〕
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企業のサステナビリティ活動を評価するESG評価が拡大している一方,インプット指標偏重の手法により,社会・環境課題のアウトカムを十分に把握できていないとの指摘がある。そこで本稿では,同志社大学社会価値研究センターが開発したバリューモデルを用いて,主要な4つのESG評価機関(S&P Global, MSCI, FTSE Russell, ISS)の評価項目が,どの程度アウトカムをカバーしているかを分析した。具体的には,⑴ バリューモデルの81目標に対する網羅率,⑵ バリューモデルの4つの基準(目標ベース・客観的測定・第三者チェック・スケール変数)を充足しているかを分析した。分析の結果,S&Pは48%,MSCIは58%,FTSEは64%の評価項目しかバリューモデルの目標をカバーしておらず,特に社会,従業員,人権に関する項目は十分に網羅されていないことが示された。また,バリューモデルの4つの基準を満たしているかについては,具体的な目標設定を求める評価項目が不足している点や,情報開示の有無のみを評価する項目が多数を占めるなど,アウトカムを評価する項目や基準が不足していることが示された。これにより,ESG投資が本来目指すべき社会・環境へのアウトカムが,現行の評価では十分に考慮されていないことが明らかとなった。