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第105号(2019年3月)

自治体間の課税ベースの重複が市場公募地方債の発行利回りに与える影響
—自治体間の信用連関についての検証—

鈴木崇文(東京大学大学院経済学研究科博士課程)

〔要 旨〕

 本稿の目的は,地方自治体の財政状態が行政区域の重複する他の自治体の市場公募債を利用した資金調達コストに及ぼす影響を明らかにすることである。都道府県および市町村は個人所得など重複する課税ベースに課税を行っている。また,両者は重複する行政区域内で行われる経済活動やその結果にも課税を行っている。既存研究では垂直的な課税ベースの重複が存在する場合,その税率は社会的な最適よりも過大になることが示されてきた。自治体が課税だけでなく債務発行を行う場合には,債務に関しても同様に垂直的外部性の問題が発生していると考えられる。そこで都道府県が発行する市場公募債の発行利回りに域内市町村の債務水準が影響を与えるかを分析したところ,債務水準の上昇が市場公募債の発行利回りを上昇させるだけでなく,都道府県の総歳入に占める重複する課税ベースからの税収が上昇するほど,市町村の債務水準が発行利回りに与える効果が大きくなることが明らかになった。つまり,域内の市町村と重複する課税ベースにより大きく依存した歳入構造の団体ほど市町村の財政状態からの影響を受けやすいと解釈できるため,課税ベースの重複による垂直的な債務外部性の存在が示唆される。

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