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第104号(2018年12月)

予測可能性と日本の株式市場

清水誠(東京国際大学商学部教授)

〔要 旨〕

 一期前の配当利回りのような変数が,株式収益の期待形成に役立つという意味での予測可能性は,情報効率性と矛盾するものではなく,またそのような予測変数が確率変動するならば,系列相関など株価収益が単純なランダム・ウォークに従わないことは非合理性の証拠とは必ずしもならない。これまで日本の株式市場について,検定バイアスを厳密に考慮した上で予測可能性が存在することを示す研究は見当たらないが,本稿は厳密な統計的検定によって予測可能性の存在を示す。これまでの日本の株式市場での予測可能性の検証は四半期データのような比較的高頻度のものが多く用いられているが,本稿は累積効果が強まる年次データのようなより低頻度のデータを用いている。更にCochrane[2011]で示されたように,配当利回りが株式収益を予測するが配当成長は予測しないことが,日本の株式市場のデータでも認められる。それによって株式収益は予測可能であっても依然としてリスキーであり,また株式収益率の対数線形近似に基づけば,配当成長の変動以上のボラティリティーを持つことは,株式収益が不合理に過度な変動をしているのではなく,むしろリスク・プレミアムの変動を反映したものという含意が得られる。つまり,株式収益の変動は予測が難しい企業収益の変動によるランダム・ウォークのようなものと,平均回帰的なリスク・プレミアムの変動が組み合わされていることが示唆される。

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