地方証券会社連携コンソーシアムの取り組み
~スタートアップ支援の観点から~
松尾 順介
はじめに
地方の証券会社などが連携し、中小企業やベンチャー企業などに対して資金面から技術面に至る伴走型経営支援の取り組みが進められ、これにより地域のIPO企業創出や地方証券会社の新たなビジネスモデル構築が企図されている。
具体的には、2023年5月に今村証券、大熊本証券および長野証券によって設立された「地方証券会社連携コンソーシアム」の取り組みが挙げられる。この取り組みは、その後三豊証券(2024年4月加入)、大山日の丸証券(2024年10月加入)、荘内証券(2024年12月加入)、広田証券(2025年4月加入)、西村証券(2025年12月加入)に拡大するとともに、一般財団法人地域未来創生機構(本部:石川県金沢市)が運営および事務を担当している。
また、この取り組みについては、2025年3月、内閣府の「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」として選定され、地方創生担当大臣表彰を受賞している⑴。
このような取り組みは、「産学官金+証」連携による地域の枠を越えた中小・ベンチャー企業の取り組みとして注目されるだけでなく、株主コミュニティ制度やJ-Shipsなどを活用したスタートアップ支援の観点からも重要な役割を果たすことが期待される。
本稿では、本コンソーシアムの設立者である今村証券に対して、①コンソーシアム設立の背景・理由、②設立に際しての問題点・課題、③現状の取り組み(特に銘柄発掘、広報など)、④証券会社にとってのコンソーシアムのメリット、⑤今後に向けての課題についてインタビューの機会を得たことから、このインタビュー調査の内容を紹介したうえで、今後のスタートアップ支援の観点からこのような取り組みの意義や課題を考察する。
1 コンソーシアム加入証券会社のプロフィール
本コンソーシアムの特徴の一つは、同一の営業エリアの証券会社によるものではなく、全国各地の地方証券会社が地域の境界を超えて加入している点である。したがって、まず加入証券会社のプロフィールを図示すると以下となる。
これらの証券会社を概観すると、以下の点が明らかとなる。
第一に、各社の営業エリアの地理的重複が少ないことが挙げられる。各社の営業エリアは、ほぼ重複しておらず、北海道と沖縄などを除いて、東日本、北陸、近畿、中国、四国、九州にわたっている。このことは営業面でライバル関係にないことが示唆される。また、それぞれの営業エリア内に多数の上場会社が存在し、東京を除いても合計800社程度に達していることも重要である。
第二に、独立系かつ老舗であることが挙げられる。図表1の通り、8社中7社の創業は戦前であり、80年超の社歴を有している。8社には100年超の社歴を有している証券会社も3社含まれている。このことは各社がそれぞれの地域に深く根差し、強固な顧客基盤と信用を得ていることを意味している。
図表1 コンソーシアム加入証券会社の営業エリア

(出所)各社公表資料等による。
第三に、ビジネスモデルの類似性が挙げられる。上記のように各社は伝統的な地域の富裕層を中心に対面営業を行っている点が共通しており、委託手数料の割合は概ね70~80%を占めている。逆に、引受手数料の割合は極めて低いことも共通しており、このことが後述のようにコンソーシアム設立の背景となっている。
2 コンソーシアムの概要
同コンソーシアムについて、今村証券、大熊本証券および一般財団法人地域未来創生機構が作成した企画・提案書⑵をもとにその概要を確認すると以下である。
まず同コンソーシアムの設立趣旨は、「地域社会に直接貢献する証券会社を目指し、産学連携や知的財産権を活用した中小・ベンチャー企業の成長戦略支援に精通した人材を育成するとともに、全国各地域の証券会社が連携する形でIPO企業創出促進を目的としたコンソーシアム設立を目指す」とされており、IPO企業の創出促進が明示されていることが注目される。つまり、その背景には、地域を基盤とした地方証券会社の役割についての根本的な見直しが要請され、具体的な地域経済への貢献を明確な経営目標とせざるを得なくなったことが挙げられるだろう。その際、単独の証券会社の経営努力だけでなく、地域間の連携を構築することによって、いわばシナジー効果が見いだされることが企図されたと思われる。
次に、具体的な活動目的として、次の3点が掲げられている(図表2参照)。
図表2 同コンソーシアムの活動目的

ここで注目されるのは、同コンソーシアムの設立趣旨にも明示されていたように、IPO企業の輩出とそれに伴う引受業務の強化である。周知のように、このコンソーシアム加入の証券会社各社は、いずれも新規上場(IPO)などの引受業務(幹事としての実績)を有している。特に今村証券は、多数のIPOの幹事団に加わっている実績がある。ただし、これらの証券会社にとって引受業務は、必ずしも収益の柱とはいえない。それを踏まえるとここであえて引受業務の強化を宣言したことは、従来のビジネスモデルの見直しを意味しており、重要な経営判断が含まれていると思われる。実際、次の項目で人材育成と産学連携が提示されていることは、この経営判断を裏付けるものと思われる。
第三に、具体的な活動方法として、以下の三段階の取り組みが提示されている。
① シード・アーリー企業の発掘:同案によれば地域証券会社の強みとして地域企業の情報を有していること、各関係機関との連携関係(特に産学連携)を有していること、地域密着型営業の実績があることなどが挙げられていることから、これらの優位性を生かした取り組みが企図されていると思われる。また、知的財産権の活用も挙げられている。
② 成長戦略支援:ここでは、具体的には、将来のIPO企業輩出が挙げられるとともに、引受業務の推進が掲げられており、資金調達支援が企図されていると思われる。
③ 地域経済貢献:上記の①および②の取り組みの最終目標として、地域経済の活性化が措定されており、このような目標を掲げた取り組みによって「地域証券会社の新しいスタイル」の確立が企図されている。
ただし、地域証券会社の弱みとして、企業支援スキル不足、業務経験不足、産学連携知識不足、大学との連携不足などの課題が列挙されている。
第四に、上記の課題解決策として同コンソーシアム内での企業情報の集約・共有化が掲げられている。具体的には、各地方証券会社が日常的に取り組んでいる企業情報活動をベースに、「それぞれの企業情報をコンソーシアム内で共有することで、ビジネスマッチング機会の向上と成果追求を可能とする」と謳われており、次の概念図が示されている。この図によれば、地方証券会社が地域情報のハブ機能を果たすことが明示されている。
図表3 企業情報の集約・共有化

第五に、同コンソーシアムの組織体制として、次の図が示されている。
図表4 同コンソーシアムの組織体制

ここでは、総会のもとに運営委員会と事務局が設置され、各証券会社が同列に糾合する形式が採用されている。また、当初は守秘義務を優先し、個別企業情報を集約すること、当初特別な支出を求めないことなどが記されている。特に、企業情報は守秘性が重要であり、その点への配慮が示されているが、このことは逆に「情報共有」との間で困難さがあることもうかがえる。
第六に、期待する効果として、下記の4点が挙げられている。
① スタートアップ・起業支援、雇用創出
② これまでにない地方証券会社としての差別化
③ 産学連携・知的財産・企業支援に精通した幅広い人材育成
④ 地域証券会社としての新たな収益モデル創出
ここで注目されるのは、やはり④の新たな収益モデル創出であろう。現下の株式市場の好況を反映して、地方証券会社の収益は増収傾向にあるとはいえ、周知のように顧客層の高齢化や地域経済の低下など共通の課題を抱えていることから、新たな収益源が模索されており、差別化やビジネスモデルの転換が模索されていることが看取される。
最後に、トライアル期間における実績として以下が挙げられている。
① 補助金獲得実績
大熊本証券が令和3年度「中小企業知的財産活動支援事業」(九州経済産業局)に採択された。この取り組みは、産学連携・知的財産を活用したビジネスマッチング支援を一般財団法人地域未来創生機構(石川県)に業務委託したうえで、今村証券株式会社(石川県)および正林国際特許事務所(東京都)と連携して行うものである。
② 各地域の実績
大熊本証券と今村証券の取り組みの事例として、次の事例が挙げられている。
図表5 各地域での実績

ここでは、地域内および域外の産学連携、地域内および域外のビジネスマッチングなどが進められていることが示されている。ただし、現時点では引受業務での実績には結びついていないようである。
③ 地域間連携実績
今村証券と大熊本証券との間では、それぞれの地域の企業等との間で連携関係を構築した事例が現れている(図表6参照)。
図表6 地域間連携実績

図表7 具体的事例

両証券会社の営業エリアは、北陸3県と熊本であり、両地域間の結びつきは希薄であることから、このような両地域の企業が連携できた要因として両証券会社の尽力があり、それなしには実現しなかったことがうかがえる。
また、このような取り組みを進めることによって、両証券会社には副次的な効果があったことも指摘されている。これらの効果は定性的なものであるが、人的交流や知識習得、考え方の変化など、人材育成に直結するような効果が挙げられていることは重要であろう。
3 インタビュー調査の内容
今村証券へのインタビュー調査における質問項目は、①コンソーシアム設立の背景・理由、②設立に際しての問題点・課題、③現状の取り組み(特に銘柄発掘、広報など)、④証券会社にとってのコンソーシアムのメリット、⑤今後に向けての課題の5項目である。
まず、①コンソーシアム設立の背景・理由については、証券会社経営においてネット化が進み、フィービジネスが成立しにくくなっている現状を踏まえ、ビジネスモデルの転換が急務となっていることが大きな背景となっている。具体的には2021年に営業法人室を法人部に改組し、法人部の業務として、従来からの事業法人、金融法人、学校法人向け営業(株、債券など)のみならず、企業支援活動(地域創生)、IPOの幹事参入、上場企業のIR推進(社内セミナーなど)、非上場株のコミュニティ加入推進、さらにはSDGs関係の管掌にも取り組むことになった。SDGs関連では、金沢大学とのSDGs勉強会などの取り組みも行っている。また、地方創生に関しては、以下の点は北陸三県の特徴となっている。第一は、地方証券会社の連携関係である。旧来、どの地域でも地方証券会社同士は横の関係を有していたが、システム化やオンライン化が進展する中で、システムの相違などが障害となり、そのような関係が希薄化したが、北陸三県では地方証券の連携が緊密であり、その結果同地域では約70社の上場企業を輩出している。第二に金沢大学、北陸先端大学、富山大学、福井大学などとの産学連携が挙げられる。具体的には地域未来創生機構は、これらの大学が加入しており、「中小・ベンチャー企業の技術課題から経営課題解決に至るまで一貫した支援を可能にする<産学官金+証>連携モデルの確立と稼働を目指す⑶」ことを謳っており、同機構が地方証券と産学連携の結節点となっている。なお、コンソーシアム発足時の加入証券が距離的に遠い、大熊本証券であった理由も同機構が機縁となっている。その機縁はやや偶然的ではあるが、2016年の熊本地震の際、北陸の大学が支援活動に取り組み、同機構も加入した。その結果、大熊本証券と同機構との関係が形成され、今村証券との連携が実現した。第三に歴史的な関係も指摘できる。90年代末ごろから両証券会社はシステム面で連携しており、そのような関係があったこともコンソーシアムの背景になっている。これは長野証券も同様であり、システムの共同利用がコンソーシアム設立の基盤の一つといえる。また、兜町の「向上会」という勉強会があり、大熊本証券、前田証券、香川証券など約30社が加入しており、同会を通じて交流があった(なお、同会は証券会社の統合などの結果、6社となった)ことも看過できない。特に長野証券とは人的なつながりも強く、それぞれの地域企業のマッチングの取り組みも実現した。このような取り組みもコンソーシアム形成の背景となっている。
②設立に際しての問題点・課題については、まず組織体制作りが挙げられる。特に、独立した法人部を設置できるかどうかという点については、同部の設置は必ずしも容易でなく、営業部と兼務せざるを得ない状況があることから、営業重視という制約の中で企業支援を行なわざるを得ない。ちなみに、現在の8社のうち、独立した法人部が設置されているのは、今村証券のほか、長野証券であり、大熊本証券はソリューション部である。次に、コンソーシアムの加入証券会社数が挙げられる。現在、8社が加入しているが、これが上限ではないかと考えられる。その理由は、支援対象企業1社に対して8社の証券会社が相対するとなると、会議のスケジュール設定だけでもかなりの困難があり、実務面の機動性が失われる。したがって、加入証券会社数が多くなると、シナジー効果が期待される面もあるものの、場合によっては8社でも過多な印象もある。第三に、コンソーシアムに加入することのメリットを共有できるかどうかという点である。例えば、新規公開企業の発掘は難しいものの、既存の上場会社のIR活動への支援の取り組みは重要である。地域の上場会社の個人投資家向けIR動画などを自社の本支店だけでなく、コンソーシアム加入証券会社にも配信するような取り組みは、地元企業から歓迎されている。ただし、これらのIR関係の取り組みを今後どのようにして機関投資家に拡大するか、さらに証券会社として収益化するかが課題であるが、潜在的な可能性が期待される。実際、3年程度のトライアルを経て、社内でもコンソーシアムに対する価値観が変化し、将来に向けたビジョンが生まれてきたように思われる。
③現状の取り組み(特に銘柄発掘、広報など)については、特にスタートアップ支援を中心にインタビューを行った。その結果、同社はスタートアップやIPO検討企業に接触する中で課題や解決方法が可視化されてきたという。まず、シード企業に関しては、事業計画の作り込み、初期資金の調達、販路拡大などの課題を有していることから、同コンソーシアムとしては、加入証券会社の地元企業とのビジネスマッチングによる販路拡大などの支援と同時に、案件を株式投資型クラウドファンディングの運営会社(FUNDINNO)に紹介し、株式投資型クラウドファンディングによる資金調達支援を行った。具体的には、今村証券が1社、大熊本証券と長野証券は2社を紹介した。その際、株式投資型クラウドファンディングとの親和性が高い会社は、熱心なファンのいる会社と魅力的な株主優待を提供している会社である。なお、これらのシード段階のスタートアップは地域のベンチャーピッチを通じて発掘したものであるが、ベンチャーピッチに加入する際には、相手企業にとって魅力的なソリューションを提供できるかどうかが重要であり、そのためには証券会社の社内体制やネットワーク作りが不可欠である。なお、今村証券は、複数の地元のベンチャーキャピタルに出資しており、当該ベンチャーキャピタルを通じた出資ができるだけでなく、投資委員会への参加を通じたネットワーク拡大も同社にとってメリットがある。ちなみに、これらのベンチャーキャピタルには、地元地銀や新聞社も出資しており、3社間の連携にも寄与している。次に、アーリー・ミドルあるいはレイター段階のスタートアップに関して、今村証券の取り組みとしては、シード段階同様、コンソーシアム加入証券会社を通じたビジネスマッチングや地域未来創生機構との産学連携が挙げられるだけでなく地元の上場企業へのスタートアップ企業の紹介が挙げられる。北陸の上場会社には、地元企業の育成に関心を持つ会社が多く、ベンチャーピッチなどにもこれら上場企業の経営者が参加し、様々なアドバイス等を行うだけでなく勉強会も組織され、上場の経験や手続きなどに関する知見などが伝達されている。これらは地方色が活かされていることの表れであろう。このような特色は京都でも見られるようである。したがって、このような関係作りをベースに、ある程度の規模を有するスタートアップ企業を株主コミュニティ制度に誘導することが考えられる。ただし、このような規模のスタートアップ企業の発掘に関しては、地銀などからの紹介はあまり期待できないと思われるため、個社のネットワークを通じてアプローチするしかないのが現状である。
④証券会社にとってのコンソーシアムに加入することのメリットとしては、同コンソーシアムを通じて地元企業にビジネスマッチングの機会を提供し、その成長に寄与できることである。例えば、具体的な成功例としては、東証スタンダード銘柄である、熊本のビューティカダンホールディングスの事例⑷が挙げられる。このような取り組みを通じて、今後の公募増資などにつなげていることが考えられる。同様に、IPOを目指す企業にもコンソーシアムを通じた企業支援・成長支援を提供することで、地域発のIPO企業を発出することが挙げられる。
⑤今後に向けての課題として、特に株主コミュニティ制度との関連でいえば、下記の点が指摘できる。
ⓐ 銘柄の発掘に関しては、アプローチの方法には課題はあるものの、候補銘柄としては株式投資型クラウドファンディングと相性の良い会社の場合と同じく、ファンの多い会社や株主優待が魅力的な会社に加えて、外部資本の受け入れに積極的な会社が対象となることが経験的に理解されてきた。そのような銘柄の多くは、すでにベンチャーキャピタルが出資している銘柄であることも知られている。ただし、最近ベンチャーキャピタル側も出資期間の制約があり、一定期間中にIPOが実現しない場合、新たな引受先を探すことになる。そこで、同社としては、このような案件に関して株主コミュニティ制度を通じて引受手を探すことを検討している。
ⓑ 銘柄審査に関しては、慎重さが要求される。特に、株主コミュニティ制度銘柄に関しては、証券会社は運営責任があり、もし倒産や不祥事が生じた場合、対応が苦慮されることが懸念材料となる。そうなると候補銘柄としては、有価証券報告書提出会社など地元で信頼されている企業に傾きがちになる。そこで、証券会社としては引受審査能力などの向上が不可欠となる。そのためにはファイナンス業務へのかかわりを通じて引受業務の能力を向上させることを考えている。
ⓒ 同社としては、J-Shipsへの取り組みを通じて私募資金調達に注力している。これは地元の非上場会社の資金調達に寄与するだけでなく、同社の引受能力の向上にもつながることが期待される。ちなみに同社はこのような私募銘柄に投資する投資家として、同社の個人投資家のうちの特定投資家あるいは準特定投資家に該当する可能性のある投資家層とともに北陸の企業も候補となる。このような私募資金調達に関与することで引受業務能力、とりわけ審査関係の目利き能力の向上が図られている。
まとめ
スタートアップ支援の観点から地方証券会社が<産学官金+証>の連携関係を形成し、銘柄発掘から継続的な支援、さらにIPO企業の輩出という取り組みを行うことは重要な意味があると思われるが、上記のインタビュー調査からは課題なども指摘できる。
まず、コンソーシアム設立には、地方証券会社の抱える共通の課題があるとはいえ、実際に設立に至るには歴史的関係や偶然的な契機が必要であり、必ずしも簡単ではないと思われる。そこで、このようなコンソーシアムの今後の展開として、3つの方向性が考えられる。
ⓐ 既存のコンソーシアムの加入証券会社の拡大:この方向性については、上記のインタビューでは、加入者数の上限が8社程度であるという指摘があったことを踏まえると、現実的ではないように思われる。
ⓑ 複数のコンソーシアムの設立:現在地場証券といわれる証券会社は50社程度と思われるが、これらの証券会社によって第二、第三のコンソーシアムが設立されるに至るのは容易ではないと思われる。その理由としては、コンソーシアムを設立する契機があるかどうか不確実であるのみならず、コンソーシアム加入証券会社の候補が必ずしも多くないのではないかと考えられる。つまり、既存のコンソーシアムの加入証券会社は、独立系であるとともに、古くからの顧客基盤を有していることが共通点となっており、これがコンソーシアムのアイデンティティを形成しているが、近年の証券界の再編等によってこのような特色を有する地方証券会社は減少している。
ⓒ 既存のコンソーシアムの営業エリア内での取り組みの深化:加入8社の営業エリアを見ると、首都圏と名古屋圏を除いて、かなり有力な経済圏がカバーされており、前述のように多数の上場会社を有していることがわかる。また、これらの経済圏は、それぞれ独自性とともに、地域志向も強い面がある。地方発のスタートアップやベンチャーを育てるためには、地域の企業を育てようという地域の熱意や価値観が重要であると考えられる。その意味では、これらの地域は、このような条件を有しており、今後それぞれの地域の案件を深堀りすることで、ユニークな地方発スタートアップやベンチャーが登場する可能性を秘めているように思われる。
以上のように考えると、ⓒの方向性が最も現実的ではないかと思われる。
次に、銘柄発掘に関しては、シード段階のスタートアップ企業は各地域のベンチャーピッチのようなイベントがアプローチのチャネルとなるようであるが、株主コミュニティ銘柄の場合、必ずしもアプローチのチャネルや手法が定まっていないように思われる。インタビューでも紹介されていたように、シード段階等のスタートアップ企業を株式投資型クラウドファンディングの運営会社(FUNDINNO)に紹介するような取り組みが進められていることを考えると、クラウドファンディングで資金調達を実施し、その後一定程度成長した段階で株主コミュニティを組成するという流れが考えられるだろう。実際、株式投資型クラウドファンディングでも株主コミュニティでも、ファンを形成し、魅力的な株主優待を実施する会社が適合的であるとされており、両者は親和性があると思われる。昨今、ファンダム経済が注目されていることを踏まえると、ここでもファンダムの形成が重要と思われる。
第三に、審査に関しては、社内体制や人材の問題があり、容易ではないが、管見の限りでは、証券会社間で審査に係る調査を他の証券会社に委託するという対応も可能であるといわれている。また、ハイテク系のスタートアップ企業の技術力や成長性、あるいはビジネスモデル等の潜在的可能性などの審査は容易ではないが、大学との連携が構築されていることから大学の有する人材やスキルの活用も考えられる。特に、大学には学部生や大学院生など、若手の人材が豊富であり、若い感性や知性に基づく目利き力の活用も期待できる。
[謝辞]
本稿は、桃山学院大学共同研究プロジェクト(26連316:デジタル・ファイナンスによる地域活性化の可能性Ⅲ)の成果の一つです。同プロジェクトによる支援に厚く御礼申し上げます。また、本稿を執筆するに際し、今村証券株式会社の担当者ならびに日本証券業協会の関係者の方々から有益なご教示を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。
注釈
- ⑴ 今村証券「令和6年度「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」地方創生担当大臣による表彰のお知らせ」、参照。
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20250314593110/ - ⑵ 大熊本証券株式会社・今村証券株式会社・一般財団法人地域未来創生機構「地方証券会社連携IPO企業創出促進活動―産学連携・知的財産活用ビジネスマッチングコンソーシアム(案)企画・提案書」(内部資料)、参照。
- ⑶ 同HP、参照。https://www.biztechfinter.or.jp/common/img/Biztech_Profile.pdf
- ⑷ 同社プレスリリース「京都大学と受託研究契約を締結 廃棄花材由来セルロースの実用化検討フェーズへ」2026年4月1日、参照。
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/30410/ba3aed15/d131/4a0e/8306/08de48c3930e/140120260401595243.pdf