〔講演〕気候変動と極端な気象現象の関係
気候シミュレーションモデルの原理と予測結果
河宮 未知生(国立研究開発法人海洋研究開発機構 上席研究員/東北大学 教授 )
御紹介にあずかりましたJAMSTEC/東北大学の河宮と申します。本日はこのような荘厳な会にお招きいただきまして、ありがとうございます。
私が本務として所属しているJAMSTEC(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology:海洋研究開発機構)は、一般の方々には知名度が低いですが、自分たちでは頑張って仕事をしているつもりです。先ほど御紹介いただいたときに少し言及がありましたIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)、気候変動に関する科学的知見をまとめる国連の活動に、世界の20~30の研究機関が数年に1回ほど予測条件をそろえて予測データを提出します。日本からは大きく2チーム、気象庁気象研究所と、JAMSTEC/東京大学大気海洋研究所/国立環境研究所の合同チームが参加しています。その2チームの一角をJAMSTECが占めています。
JAMSTECの最近のヒットはレアアースの採掘です。「海洋」なので、「水産漁業のことをやっているのですか」とよく聞かれますが、当機構の所管官庁は文部科学省で、お魚に関しては、別に水産庁の研究所があり、彼らと連携しながら取り組んでいます。マニアックなところでは、深海でのヨコヅナイワシの撮影がテレビで話題になりました。
今日は「気候変動と極端な気象現象の関係」というテーマですが、専門として開発に携わっている気候予測シミュレーションモデルについて少し時間を割きたいと思います。「資本市場を考える会」ですが、そんなに資本市場と関係ありません。私も専門分野で仕事をしていて、気候リスクに関する情報開示が一般企業の間で問題になってきているというお話は、そちら方面に就職した職場の後輩からも聞く機会がありますが、変に話をそちらに寄せるよりは、TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)の裏に我々がふだんやっているこういうものがあるということを理解していただいた上で、ディスカッションに結び付けられればと思っております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
1.地球温暖化の現状
それでは、「地球温暖化の現状」からお話に入ります。
図表1は、全地球表面の平均気温を19世紀後半から今までの時系列で見たグラフです。20世紀後半からは、細かな変動はあるものの、大きな傾向としては一本調子で上がり続けています。特にここ2~3年、夏がたまらないほど暑いと思っていたら、世界中がそうで、グラフでも飛び抜けて高くなっています。
図表1

図表2は、海表面水温を1年ごとに1本の時系列で示して季節変動が分かるグラフです。下の点線が1980年から2000年まで、その上の破線が1990年から2020年までの平均です。直近数年の線に年号を付しておきましたが、ここから分かるように順調に上がってきていて、その少し前の平均よりも大分高くなっています。上の方に外れて目立っている2本の線は2023年と2024年です。この分野の専門家も、ここのところ、とんでもないことになっていると驚きを持って見ています。
図表2

経済に関わっている皆さんから見ると、気象のデータも証券や経済のデータと似たところがあると思います。長期的なトレンドを決める要因と、細かいギザギザの短期的な変化を決める要因が別にあって、相互に影響を及ぼしている。直近でグラフがぴんと跳ね上がっているのは、長期的な傾向として、我々が予想していない、とんでもないレベルに行ってしまったことを示しているのか、それとも戻り幅は大きくないにしても、じきに戻る短期的な変化なのか、まだ議論を必要とするところです。
それをもたらしているのが二酸化炭素の増加であることを表した図表3のグラフです。1958年から本格的な実測が始まり、2020年代には420ppm近くまで上がっています。来月57歳になる私が高校生だったときは340ppm~350ppmぐらいです。教科書には「二酸化炭素濃度0.03%(300ppm)」と載っていましたが、最近は0.04%と教科書を書き換えるほど環境が変わってきています。
図表3

図表4は、環境の激変をもっと如実に示す図です。南極の氷床の奥から大昔の氷を掘り出し、そこに含まれている泡を分析すると、当時のCO2濃度が分かります。それによると、上方の時系列の線のように、過去16万年、180ppm~280ppmの間で変動はあるものの安定していたのが、図の一番右端で線が急にぴんと跳ね上がっています。これが将来予測まで含めた最近のデータですが、将来予測を除いても、「現在CO2濃度」が400ppmまで跳ね上がっていて、異常さがお分かりになると思います。
図表4

氷を掘り出して昔のCO2濃度を測る活動は、ここでは16万年前までのデータを示していますが、もっともっと昔まで遡ったデータが得られていて、少なくとも80万年程度は、7~8回、規則正しく180ppm~280ppmの範囲で変動していたことが分かっています。現在のCO2濃度は、地球ができて46億年の間には当然存在した濃度ですが、ここ100万年のレベルで見ると、地質学的にも大変な高さになっています。
図表5は、「『豪雨』の頻度」ということで、日降水量100mm以上の年間日数を示しました。日降水量100mmというのはぴんとこないかもしれませんが、「今年一番の雨」と言われるぐらいの降水量で、その1年当たりの日数は1日とか1.何日というレベルです。この日数についても、AMeDASのデータを整理すると、ギザギザはありますが右肩上がりの傾向が見られます。気温が上がれば、大気が含み得る水蒸気量が増えて雨のポテンシャルが上がるため、豪雨の頻度も上がってきているのではないか。これも厳密に科学的に証明せよと言われると、まだ議論の余地はあるのですが、多くの気候学者がそう考えています。
図表5

2.気候シミュレーションモデルの原理
ここまでは、現在までの気候変化がどうなっているかを示しました。将来的にどうなるかという話をするときには、観測データはないので、シミュレーションモデルを使用する必要があります。そこで、「気候シミュレーションモデルの原理」についてお話しします。
図表6は、気候予測のシミュレーションモデルの原理をポンチ絵で表しました。シミュレーションモデルというと、ものすごい量のデータを詰め込んで、そこから何がしかの相関関係をポンと導き出すとか、はやりのAIのお化けみたいなイメージを持たれている方も時々いらっしゃいますが、それは非常に高度な誤解でして、気候変動予測のモデルでは、真正直に物理的にどうなのかというところを真面目に解いていきます。
図表6

太陽の光が入ってきて、その後、地球から宇宙にエネルギーを跳ね返すプロセスが存在します。その跳ね返されるエネルギーを、大気中の成分が一度受け取って、跳ね返したりするのですが、どれぐらい受け取って、どれぐらい跳ね返すのかというプロセスは、物理的に微視的レベルでは解明されているので、それが地球全体でどうなるか、一から積み上げ方式で計算していきます。暖かい所、寒い所ができると、気圧差も生じます。気圧は要するに圧力ですから、圧力の高い所から低い所に力がかかります。そのせいで起こる風がどの程度であるかを物理的に計算していきます。
こういう話を世界で最初に始めた一人が、2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎先生です。眞鍋先生は一時期JAMSTECにいらしたことがあって、彼の先導で気候モデルのチームが発足しました。眞鍋先生がJAMSTECを去る2001年頃の集合写真を見ると、ノーベル賞受賞が新聞等で報道されたときより当然ながら大分お若いです。私は残念ながらちょうど眞鍋先生と入れ替わるような形でJAMSTECに来て、後になって先生が当時就いていらしたポストを引き継ぎました。
シミュレーションモデルの原理は物理的な計算であると言いました。どういう物理かというと、必ずしも物理が御専門の方ばかりではないと思いますが、ニュートンの運動方程式は御存じかと思います。海の水がどう動くか、気圧の差によって風がどう吹くか、流体や気体の運動はニュートンの古典物理で決まります。
加えて、地球の気候モデルは流体力学の大規模なものであり、流体力学で大事な式として連続の式があります。「連続の式」という名前はなじみがないかもしれませんが、意味するところは、目の前にあるシリンダーの中の空気分子を数えられたと仮定して、空気分子の数の時間変化は、シリンダーの中に入ってくる量と出ていく量の差で決まるという当たり前のことです。この当たり前のことをきちんと条件として与えないと式が解けません。
それから、物体を温めると温度が上がるという熱力学第1法則があります。
あとは、日常的に使うかどうかは別として、聞いたことがある方は多いかと思いますが、PV=nRTという状態方程式もあります。
図表7は、今申し上げたことを数式で表しました。コサイン(cos)とかタンジェント(tan)とかいろいろ入っているのは、球面上で方程式を解くからです。見かけはいかめしいですが、言葉で表すと、南北と東西と縦の3方向の運動方程式とか、気象学、海洋学ではP=ρRTで表す状態方程式とか、古典物理の式ですので、なじみのある方が多いと思います。地球上をくまなく網目に分けて、その網目ごとに一つ一つの式を計算して予測を行います。
図表7

図表8は、1マス300kmサイズの網目で地球上を全て覆ったときの日本の辺りを示した図です。日本海は湖になっています。メッシュの大きさが100kmだと、勘のいい人は「日本だ」と言うかもしれませんが、日本海はまだ湖です。10kmだと、日本だと分からない人はいないと思います。
図表8

当然メッシュは小さい方がいいですが、そうすると計算負荷が大きくなります。100年レベルで気候がどう変わっていくかを計算しないといけない温暖化予測も計算負荷が問題になりますので、バランスの問題です。天気予報のモデルは、10km前後のメッシュサイズで細かい計算を行います。先ほど示した物理法則に基づいた予測という観点では、天気予報も温暖化予測も一緒です。今のところ温暖化予測は100kmくらいのケースが多いです。地球規模で大体のことが分かればいいというシミュレーション実験をするときには300kmくらいのシミュレーションもまだまだ健在で、研究の役には立ちます。
100km程度のメッシュサイズで、100年レベルで、先ほど申し上げた数式、本当はもっとありますが、それらを全部解くにはスーパーコンピューターが必要です。20年前JAMSTECに導入された「地球シミュレータ」は、遠い昔、財務省の方々にもお世話になったので、御存じの方がいるかもしれませんが、代替わりして今は4代目で、もうすぐ5代目になります。いまだに同じ名前で稼働しています。それを使って温暖化予測をして、IPCCの報告に役立てるよう、国際プロジェクトにデータを提出します。
「地球シミュレータ」の現在の性能は、約20PFLOPS(ペタフロップス)です。老人から赤ん坊まで世界中の人全員が、1秒に1回どんな計算でもできると仮定して、昼も夜も計算し続けて1か月かかる計算量を1秒で行います。これでも神戸にある「富岳」の5分の1ぐらいの性能だと思いますが、一概にすごさも5分の1とは言えません。どの計算が得意、不得意ということがあるので、地球科学分野の人が自由に使えるスパコンとしては非常に有力な計算資源です。「富岳」は全科学分野で共有しないといけませんが、「地球シミュレータ」は自分のところのコンピューターですので、他分野を気にせず、それこそ報告書用にデータを急いで仕上げなければいけないときには、運営の人たちに融通をきかせてもらったり、これはこれで使い勝手がいいです。
図表9は、現在までの気候変化を計算し直した結果です。2020年までの観測結果と、世界中の研究所のいろいろなシミュレーションモデルを持ってきて、同じような実験デザインで計算した結果を平均したものを図示しています。線が大きく沈んでいるところは、どの研究所のモデルを持ってきても沈んでいることを示しています。火山噴火があると、どこのモデルでも大きく沈みます。この年は暖かかった、寒かったというのは研究所によって違いますが、そのギザギザは平滑化されています。ところどころ観測結果の線とズレがありますが、最近の急激な温暖化に向かう大まかな流れは再現されています。
図表9

仮想的な実験として、人間がCO2を排出せず、大気中のCO2が増えなかったらどうなるかという計算もできます。暖かい年、寒い年、暖かい10年、寒い10年とか自然にあるので、そうした自然の変動の範囲はどの程度か、それで急激な温暖化が生じるかどうかをチェックした結果、下方のシェードで示した程度の幅でした。少なくともシミュレーションモデルがある程度正しい、大体現実を反映していると考えると、急激な温暖化は絶対出現しません。このシミュレーション結果以外にもいろいろサポートする事実があって、2021年のIPCCの国連の報告書で、温暖化が人間の影響によるものであることはほぼ間違いないと結論づけられました。政策決定者向けサマリーにその文言が記されています。
3.気候シミュレーションモデルによる予測
次に、「気候シミュレーションモデルによる予測」です。
温暖化を予測するためには、CO2の排出予測も一緒に立てる必要があります。これは自然科学の範疇の問題ではないので、社会経済分野で将来予測を行っている研究者が、代表的な、あり得るシナリオを選び、「これで温暖化予測をしてください」と気候学コミュニティに連絡します。それでセレクトされた5つのシナリオを図表10で示しました。
図表10

一番上がCO2の排出規制を全く行わなかったシナリオです。2100年に向けて、現在の40ぐらいの数値が3倍に達します。
温暖化をこれぐらいに抑制しようということで、1.5度目標、2度目標があります。お聞きになったことがあると思います。1.5度目標に整合するのが一番下、私から見ても実現に疑問符が付く2050年ゼロ・エミッションのシナリオ、2度目標に整合するのが下から2番目のシナリオです。
図表11は、CO2の排出シナリオを与えてCO2濃度に焼き直しつつ、将来の気温変化を予測した結果です。アニメーションでお見せすると、19世紀後半に比べて暖かい所と、寒い所がウネウネ動きます。時々ペルー沖辺りにサッと表れては消えるものが、エルニーニョという温暖化とは関係ない自然現象です。最初のうちは暖かい所と寒い所が入り乱れていますが、どんどん暖かくなっていきます。
図表11

何の規制も行わずCO2を一番排出したと仮定したとき、2100年時点での画像はどこも高い昇温を示しています。気温が世界平均で5度弱上がるという結果になりました。特に北極付近は温暖化が厳しく、今は夏でも氷に閉ざされた海が、将来は普通に航海できる海になるのではないかということで、ここを利用しない手はないという議論も活発化しています。その議論に科学面から貢献する立場で会議に参加しているJAMSTECの同僚もいます。
図表12は、2度目標を達成したときの2100年時点での結果です。もちろん温暖化していないときと比べると全体的に暖かくなっていますが、何も規制しなかった場合の画像とは大分様子が違います。これだけ違うと我々が感じる環境も違ってきます。
図表12

先ほど申し上げたように北極だけやたら気温が上がる。その背景は気候学にそれほどなじみがなくても想像がつきます。北極は海が開いていて氷がプカプカ浮いています。温暖化で氷がどんどんなくなって海面が露出してくると、もともと氷で白かった所が、どちらかというと黒っぽくなってきます。そうすると、光をよく吸収するようになって温暖化にさらに拍車がかかり、熱をより受け取りやすくなって、また気温が上がって氷が解ける。こういう悪循環がもともと組み込まれているために北極地域は温暖化の度合いが激しい。そこに比較的近い日本も世界の中では温暖化の度合いが激しい地域になります。
一番氷が少ない9月のデータで示した1850年時点の北極圏の氷の様子が、CO2を一番排出するシナリオでどう変化するかをアニメーションで見ると、真冬はさすがに氷が張りますが、夏は氷がなくなって北極海がごく普通の海になってしまいます。北極の氷がかなりの勢いで解けているのは、我々の専門分野では広く認識されています。たとえ規制が進んで排出をかなり削減しても、夏に限れば、2050年には全く氷が消失して、我々が知る地球ではなくなる。そういう事態が起こると考える人は多いです。
図表13は、CO2の排出シナリオによる昇温予測を時系列で示しました。CO2を一番排出した場合、2100年には気温が19世紀後半より5度弱上昇し、規制がきちんと機能して1.5度目標、2度目標に対応するシナリオを守れば、当然そのぐらいの気温になるという結果です。
図表13

何も規制しないと地球全体で5度温まるというのは、正直、私も実感としてつかみ切れていませんが、実はこの気温差は、2万年前の一番寒かった最終氷期最大期(Last Glacial Maximum)、マンモスが吹雪の中を歩いているイメージの時代と現在との気温差(5~6度)と同じです。CO2の排出をこのまま何も規制しないと、今世紀末から現在を振り返ったとき、現在が氷河期に見えるぐらい気温が違ってきます。
太陽と地球の関係で少しずつ軌道がズレてくることで、氷河期と、今のように少し暖かい時期が周期的に出現することを示した図が、図表14です。今はどちらかといえば温暖期にあるけれども、この先、氷期に移っていく。この自然変動は短く見積もっても1万年単位で起こります。最初に示した、CO2濃度と気温が対応して跳ね上がるスピードは100年レベルで自然変動を大きく凌駕し、地球史的に見てちょっとしたイベントというイメージです。
図表14

過去40万年間にわたってCO2濃度はかなり規則的に増減を繰り返してきました。増減の幅は180ppm~280ppmの間でしたが、今はその上限を超えて濃度が増しています。
4.極端現象の将来予測
次に、「極端現象の将来予測」です。それこそTCFDはこれへの対策が主になるのでしょうか、異常気象がどうなるかという話をします。
図表15は、国連の活動であるIPCCの最新レポートに載った図です。粒の密度で確率を表しています。現在は19世紀後半に比べて気温が1.1度上昇しています。50年に1度しか起こらないような極端な高温、19世紀後半においては100年に1度のレベルだった猛暑が、100年に5回、5倍の確率で起こるようになっています。1.5度目標を守れたとしても、今よりは確率的に上がると予測されています。
図表15

10年イベントの大雨は、19世紀後半に比べて、現在までの温暖化では少しは増えているものの、明確な差異は見られません。しかし、1.5度目標を守っても2倍、何も規制がない状態で4度、5度と上がると2~3倍に増えるという予測です。
IPCCの報告書は、本体は分厚いですが、政策にできるだけ生かしてもらおうということで40ページぐらいのまとめを作ります。それは科学に基づきながらも政策決定者に読ませるのが前提ですので、専門的な図をできるだけ使わずに直感的に理解してもらうことが眼目になっていて、いろいろ工夫を凝らして、御覧のような図が載っています。これらの結果は世界中で平均した値です。
日本については、詳しくは「日本の気候変動2025」で検索していただくと出てきますが、年平均気温はCO2の規制の具合によりますが、当然上がって、猛暑日、このレポートの時点ではなかった酷暑日など、暑い日も増えていきます。
降水は、「1時間降水量50mm以上」がニュースで比較的よく出てきます。我々も最近、土木分野の人たちと交流するようになり、いろいろ話を聞きますが、都市計画は、「1時間降水量50mmの雨が降っても都市機能が破綻しない」が基準だそうです。「以上」だと都市機能がちょっと破綻を来すような雨ですが、その発生回数が、気温上昇を2度に抑えたとしても現在の1.8倍、4度上昇すれば3倍になると予測されています。そうお聞きになったことのある人は多いかもしれません。それがきちんと物理で真面目に一から積み上げた予測の結果であることは覚えておいていただければと思います。
台風は気になりますが、断定的なことが言えるわけではありません。個別のシミュレーションモデルで「台風はこうなる」という計算結果が出てきますが、他の国の研究所の結果を見ると違っていたりします。1つ言えるのは、一つ一つの台風で、最強クラスの台風は強くなるだろうと予測されていることです。
気温が上がると大気が含み得る水蒸気が増えます。よく例え話で言いますが、台風は水蒸気を食べて成長する生き物です。大気中に含まれている水蒸気は凝結するときに周りに熱を放出します。それがエネルギーになるので、大気が水蒸気を多く含めば含むほど台風のエネルギーは増します。台風が食べる食料は順調に増えていく。それにつれて最強レベルの台風は強くなっていくと言われています。ただ、それで日本に来る台風が増えるのか、統計的に見て確かなほど全体として台風は強くなるのか、発生個数はむしろ減ると言われていますが、それは本当か等、まだ最終的な結論には達していません。
一度発生してしまった一つ一つの台風を見れば、温暖化前よりも雨の量が増えているケースが多い。それを京大防災研究所が見える化したのが図表16です。NHKの番組でも取り上げられたその研究成果を示します。
図表16

左側に、新幹線が水浸しになった衝撃的な映像がメディアで流れた2019年の台風19号で、どの地域にどれだけ雨が降ったかを再現するシミュレーション実験の結果と、海面水温が温暖化しなかったときにどうだったかということで差し引いて、それに応じて大気が含み得る水蒸気量も差し引いて、同じ台風が同じ所を通ったときにどれぐらい雨が降るかを計算した結果が並んでいます。両者を比べると、前者の方が降水量が増加していることが一目で分かります。数字では10%程度の増加ですが、もともと目一杯降っても洪水が起こらないように、何とか耐え切れるように都市計画を立てていますから、10%の違いは命取りになり得る大きな差です。
右側は、長野県の、人が亡くなった付近の洪水の範囲を示しています。「温暖化あり」のケースと「温暖化なし」のケースで洪水面積に差が出ていて、温暖化がなければ、洪水は人的被害が出た箇所には達しなかったはずだという結果になっています。
昨年は、夏の猛暑で、40度はもう普通なのだなと実感させられました。夏に入る前の6月の段階で35度が出現しました。35度予報が出され、まさかと思っていたら、翌日、本当に35度になったことを記憶しています。その6月の16~18日までの3日間の高度1500mにおける平均の気温分布を平年からの差で表したものが図表17です。日本付近の上空に非常に暖かい空気があったことが見てとれます。
図表17

このような高温など個別の極端事象に対して、温暖化がどの程度寄与しているかというイベント・アトリビューションの研究が最近盛んになってきています。アトリビューションは、何かのせいにすることという意味です。暖かいのだから温暖化のせいだろうと言ってしまえばそうかもしれませんが、猛暑は温暖化がなくても起こりますので、それが温暖化のせいでどれくらいひどくなっているのか、どれくらい確率が上がっているのか、きちんと調べなくてはいけません。
よく「気象現象はカオスだ」という言い方をしますが、物理に基づくといっても、条件を少し変えただけで、同じシミュレーションをしても結果が大きく変わったりします。多分に確率の問題ですので、サイコロを振るようにたくさんシミュレーション実験を行い、その確率分布を見て、温暖化の影響がある、ないという定量的な議論をするのが、イベント・アトリビューションの研究手法です。
物事は、ある程度は確率で、ある程度はバックグラウンドで動いているというのは御理解なさっている方が多いかと思います。図表18は、特に一般の方々に確率を説明するときによく使う図です。
図表18

上から玉を落とすと、パチンコ台のように釘が突き出ている間をボールがカラカラと下りていって、下の柵の中に収まるピンボール台があると想像してください。素直に上から落としていくと、真ん中の柵に一番多く玉が集まります。端っこにも時々入りますが、数は多くありません。平均の辺りに多く集まるガウス分布になります。右端の柵が暑夏、左端が冷夏と捉えると、ピンボール台を少し傾けた温暖化の状態では、暑夏の方に玉が多く入ります。この分布とガウス分布の形の差を見ることで、温暖化の寄与が定量的に議論できるというイベント・アトリビューションの手法です。
イベント・アトリビューンのためには大変な実験を数多くこなさないといけません。数をこなす様子をアニメーションで示します。最初は地球全体のシミュレーションをします。この初期値、スタート地点のデータを少しだけいじって似たような実験をいろいろ行うと、次第に違いが大きくなってきます。その一つ一つの実験に対して、日本付近とか着目したい領域を区切ると、領域が狭いだけにメッシュの細かい実験がいろいろできて、地形のせいで急激な雨が降ったという状況も表現できますし、例えば九州に着目して、豪雨や極端な熱波の頻度の統計も取れます。
温暖化がなかった場合・ある場合でいろいろなシミュレーション実験をした結果、極端に暑かった昨年の夏の走りの6月の気温は、確率分布として暑い方にズレてきているという統計情報が取れました。
縦の破線が2025年6月16~18日の日本上空1500mの気温です(図表19)。この気温になる確率は、温暖化がなければほぼゼロであるのが、相当程度、有意な確率になってきていて、実際にその気温になりました。そうしたことが昨年6月からその後の夏にかけての大変な猛暑をもたらしました。我々の分野の人間は、「確率的な事象は、1かゼロか、白か黒かでは言えない」とよく言いますが、このレベルに達する猛暑は、温暖化がなければほぼゼロ、あり得なかったと結論づけられます。温暖化でそういう夏がどんどん増えてきているということです。
図表19

図表20は、実際に治水計画はどうしたらいいか、農業はどう変えていったらいいのかというところにきちんと役に立つデータを、気候モデリングのコミュニティから関連分野にも出していこうという活動が始まっていることを図で示しています。気候モデルリングに携わる我々の仕事は、全世界を対象としたモデル、領域を対象にしたモデルの両方を計算して、特に日本付近について細かなデータをきちんと出す。将来に関しては、例えば同じ2050年のデータでも、少しずつ違う条件でいろいろなケースを組み立てて予測します。真剣に科学的に、確率的、統計的な議論ができるように、それに必要なサイコロをいっぱい振ったデータセットを用意して、それを治水や農林業、漁業の分野に公開しています。
図表20

特に治水の分野は、雨がどれぐらい降って、川にどれぐらい集まって、洪水の確率がどれぐらい上がるということで比較的定量的に議論しやすい分野です。堤防の高さをどれぐらいにしたらいいか、現在までのデータではなくて、将来の気候予測データを準観測データのように扱って、きちんと考慮に入れて計画を立てていくなど、データ利用がどんどん進んでいると伺っています。そうやって実際面での応用が進むと、「気候学者としてはあまり興味がないけれども、こういうところもきちんとしてほしい」と注文も届くようになって、それに応じてモデルを改良していくという好循環が出来上がってきています。
右側の「一級河川の流域ごとに図示した将来の最大降水量の変化(%)」という図は、d4PDFという気候変動影響評価用データセットを使った研究の一例です。かなり網目を細かくして、河川の占有エリアごとに降水量の変化を表していることがお分かりいただけると思います。このデータが作成された2018年だと、たしか5kmメッシュのデータがあると思います。100kmクラスのメッシュの全世界用のモデルから、順々に領域を区切って網目を細かくしていって、最近は「この川がどう」というレベルの議論ができるようになっています。これから2kmメッシュも作ろうとしています。
京都大学の人が計算した治水に関わるデータで、100年に1度の大洪水のひどさ、あふれる水の量が何倍になるというのを河川ごとに色で示したものが図表21です。大阪湾付近の拡大図では、あふれる水が1.1~1.3倍になるという試算の河川が多くなっています。洪水面積はどうかというところにもきちんとコンバージョンできるデータです。こうしたデータを用いながら先の治水計画も立てられるようになってきています。
図表21

5.まとめ
まとめです。気候シミュレーションモデルは、統計に基づいて温暖化の量を出すというよりは、物理的な法則を一つ一つ詰めていって、将来予測を行うモデルであることをまず御理解いただきたいと思います。
全世界レベルを対象とするシミュレーションモデルは1マス100km、あるいは300kmで計算する場合もあります。そのモデルをさらに領域で区切り、メッシュをより細かくして、地方行政に携わる人たちも利用できるデータセットの整備が進んでいます。
極端に暑い夏、とんでもない集中豪雨といった個々の極端イベントに対して、温暖化が本当に寄与しているのか・いないのかを科学的に議論できるようになってきています。そうした手法を適用すると、異常気象に対して確かに温暖化の影響はある。ただ、温暖化の影響が出てこないところもあるにはあって、そこは気候業界に関わる人たちも「今の知見では断定的なことは言い切れない」と伝えています。例えば台風については、温暖化によって、頻度がどれぐらいになるかはまだ少し自信がないけれども、ものすごく強い台風がもっと強くなることは大体コンセンサスが得られてきています。
ここで私の話を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○森本理事長 河宮様、気候変動の将来予測について、最近のシミュレーションのやり方、その進歩、またそこから得られる知見を分かりすく説明いただきまして、大変ありがとうございます。
それでは、皆様から質問又はコメント等をいただければと思います。
北極の氷が解けるというお話が非常に印象的でした。その横にある、最近トランプ大統領がすごく関心を示しているグリーンランドは予測していないのでしょうか。
○河宮 気候モデルの中では予測していません。ただ、グリーンランドの上に乗っている氷の塊のシミュレーションモデルも別途あって、それを用いた、氷がどれぐらい解けているとか、海面上昇にどれぐらい寄与があるという研究があります。
○森本理事長 グリーンランドも、北極ほどでなくても、氷がかなり解けるのでしょうか。
○河宮 グリーンランド島は、1000m、2000mのレベルの厚さの氷がドンと乗っています。今日御紹介したモデルのレベルでは、少し解けても見かけはそれほど変わりません。ただ、島の端は、氷がどんどん解けてきているので、地面の露出が増えていると思います。
○質問者A 衝撃的なプレゼンをどうもありがとうございました。温暖化で海水面がどれぐらい上昇するかは予測されていますか。
○河宮 海水面については、別途データをかき集めた予測で、CO2を一番排出する場合、2100年時点で1.2m程度の上昇だったと思います。ただ、CO2の排出をピタっと止めたとしても、宇宙空間と地球との間の熱の不均衡は続きます。CO2が増えた分、地球全体で見ると熱を吸い続けます。その熱は全部海に行きます。海は空気に比べると温まりにくいため、気温はそれほど変わりませんが、海はどんどん熱を吸収し続け、その分だけ熱膨張します。CO2の排出がなくても海面はそのままジリジリと上昇していくのです。それはこの先、100年、200年、続いていくと予想されています。もちろんCO2の排出を抑えれば、海面上昇はそれなりに低くなりますが、低くなる程度は小さいです。
○森本理事長 今のお話と関連して、海面上昇は、陸地の氷が解けるのと、水が膨張するのと、どちらの寄与が大きいのでしょうか。
○河宮 私がドクターを取ったばかりの頃は、熱膨張がほとんどであると学校で習ったのですが、最近は氷が解ける方が大きくなってきています。
○質問者B 興味深い発表をありがとうございました。御質問の第一は、海面上昇した場合、水産業関係のどこに影響が出てくるのか。第二は、治水や農林水産業以外で、気候シミュレーションモデルの応用の可能性はあり得るのか。以上、お願いします。
○河宮 海面上昇は水産業とはあまり密接な関係はないかもしれません。むしろ高潮がどうなるという影響予測に用いられるのではないかと思います。水産業では養殖業をどうするかというときに、当然、細かな地形を気にしながら計画を組み立てないといけないので、影響があるかもしれません。
水産業では、海水温や黒潮の動向がどうなるかを気にしています。林業は、森林総研の人たちとも交流があって、台風がどうなるということよりは、林業に対する長期的影響ということで、本当にジワジワと暖かくなるのかということを気にします。温暖化のどの部分を気にするか、分野によってすごく違うという印象を持っています。
治水、農林水産業以外への応用では電力関係があります。電力会社の方と話していると、温排水の排出のときに、元の海水の温度と、排水する水の温度の差が結構細かいところで影響してくるようで、そこはどうなのかと聞かれることがあって、意外に思っています。あとは、水力発電と当然関係する水循環とか、風力発電に関して、どこか風が強い所はあるか、細かなデータを要求されることがあるようです。
○質問者C 図表17の下のところに、昨年6月16~18日の猛暑について、「史上最高気温の原因:強い太平洋高気圧と、亜熱帯ジェット蛇行の重ね合わせ」と出ています。素人ながら、気候変動ついていろいろ見たり聞いたりして、日本の気候の変化に大きな影響を及ぼしているのは多分ジェット気流ではないかという直感を持っています。そのあたりを差し支えない範囲で教えていただければと思います。
○河宮 私は海洋物理が専門ですので、大気中のジェット気流は詳しくないですが、「この年はどうだったか」というところに対する影響は、ジェット気流がどうだった、太平洋高気圧の張り出しがどうだったという面に着目した方が、分かりやすいケースが多いです。個別の夏、個別の梅雨といった見方では、ジェット気流の蛇行、気圧配置がどうなるかという影響が大きいと思います。温暖化は、同じようなジェット気流があったときに猛暑の度合いがどれぐらいとんでもないところに行くかとか、個々の影響にどれだけ下駄を履かせられるかというところに関わってきます。
もう一歩進めて、温暖化のせいでジェット気流の蛇行の頻度がどうなるとか、太平洋高気圧の張り出しの勢いがどうなるかというところも当然議論の対象になります。太平洋高気圧の張り出しが強くなるだろうと思っている人は多いですが、ジェット気流、それこそブロッキング現象の頻度がどうなるかは、まだまだ最先端の研究分野で、シミュレーションモデルでは有意な差は出てきていないのではないかと理解しています。
○質問者D 「緯度が高いほど気温上昇の度合いは大きい」との説明があり、これは常識とは違うように感じますが、どういう理由でそうなるのですか。
○河宮 もともと気温の低い所の方が気温上昇幅が大きいので、気温がグッと上がって南北差が小さくなります。その理由の1つは、先ほど申し上げた北極付近に組み込まれている悪循環のメカニズムの影響が、北の方が大きいということです。
もう1つは、地球の熱バランスとして、赤道付近で受け取り過ぎた太陽からの熱が高緯度の方に流れます。極付近は、弱いけれども太陽からの熱と、赤道付近から流れてきた暖かい空気を受け取ります。受け取った熱はどこかに逃がさないといけませんから、地表面からエネルギーとして放出します。この放出する熱が結構大きなパーセンテージを持っていて、地球からの放射エネルギーを跳ね返すCO2の増加のインパクトが高緯度地域の方が大きいのです。換言すると、温度を持った物体は必ず熱を放出しています。それを赤外放射と言います。赤外放射を吸収しては、跳ね返すのが温暖化という現象ですので、今申し上げた理由で赤外放射の重要性が大きい高緯度地域の方が、CO2の増加の影響も大きいのです。
○森本理事長 これまでの高温など短期的な気温上昇は、地球の中で言いますと、やはり高緯度地方の方が既に上がっているのか、それとも日本のような中緯度の方が既に上がっているのでしょうか。
○河宮 日本も温暖化が割と大きな地域に属していますが、気温の変化幅、気温の上がり方は明らかに北極付近の方が大きいです。異常気象の頻度は、探せばデータがあるかもしれませんが、すぐには出てきません。
○森本理事長 それでは、時間ですので、本日の「資本市場を考える会」は以上とさせていただきます。
河宮様、分かりやすいお話を本当にありがとうございました。(拍手)
(本稿は、2026(令和8)年5月11日に開催した講演会での要旨を整理したものであり、文責は当研究所にある。)
略歴等
【略歴】
- 1969年名古屋市生まれ。
- 1997年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。
- 東京大学気候システム研究センター研究員、独キール海洋学研究所研究員などを経て現職(国立研究開発法人海洋研究開発機構 上席研究員)。
- 2024年度より東北大学教授兼務。
- これまで、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)データタスクグループメンバー、IPCC総会日本代表団メンバー、査読編集者などとしてIPCCの活動に関わる。
- 他に日本地球惑星科学連合副会長、日本海洋学会環境問題研究会会長等を務める。
【専門】
- 地球システムモデリング、海洋物理学。
【著書】
- 『シミュレート・ジ・アース』(ベレ出版)等。