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第66巻第4号(2026年4月)

たかが会計、されど会計―財務会計のリアル・エフェクトの観点から

山下 知晃(福井県立大学経済学部准教授/当研究所客員研究員)

1.大学時代の思い出と恩師の言葉

最近、大学・大学院時代(私は会計学のゼミに所属し、財務会計を学んでいた)の恩師の古稀をお祝いする機会があり、久々に大学時代の同級生や先輩・後輩たちと顔を合わせることができた。残念ながら、私は当日、お祝いの会の司会を務めていたため、ゆっくりと話をすることはできなかったのだが、皆の昔と変わらない元気な姿に大変懐かしい気持ちになった。

さて、その恩師のお祝いの席で諸先輩方が大学・大学院時代の思い出を振り返りつつ祝辞を述べるのを聞きながら、私は学部生時代に恩師から学んだことを思い出していた。私が一年浪人をして大学に入学したのは2005年。翌年、恩師のゼミに所属し(私が通っていた大学では、当時、二年生―私は関西の大学に通っていたので「回生」という方が正しいかもしれない―からゼミに所属していた)、会計学の勉強をはじめた当時は1990年後半からはじまった一連の会計制度改革(「会計ビッグバン」とも称される)が大詰めを迎えつつある時期であった。そんなあるときのことである。恩師曰く、「会計(ここでは特に財務会計)は現実(企業の経営活動)を映し出す単なる『鏡』のようなものではなく、時として、それが現実そのものに影響を及ぼし、変化を及ぼすものである。」不勉強な学生であった私は、当時、その言葉の意味を完全に理解できたわけではなかったが、なぜかその言葉が妙に気になって、印象に残ったのであった。もっとも、最近、物忘れが多くなってきていて、恩師がその時におっしゃったことを正確には思い出せないため、多少の記憶違いはご容赦願いたい(しかし、当時のどうでもよいことは今でもはっきりと思い出せるので、記憶というものは不思議である)。

2.財務会計が現実(企業の経営活動)に影響を及ぼす?

財務会計(最近では財務報告といった方がよいような気もするが、このエッセイでは財務会計とさせてもらう)が現実(企業の経営活動)に影響を及ぼしてしまう―このような観点からの研究は財務会計のリアル・エフェクト研究と呼ばれ、会計学分野では、近年、注目を集めている研究領域となっている(Biehl et al. 2024;Roychowdhury et al. 2019;Shakespear 2020)。もう少し詳しく述べると、財務会計のリアル・エフェクトとは、財務会計(の特性や会計基準などの変化)が本来は財務会計システムの記録・報告の対象であるはずの企業の実体経済における意思決定(投資・生産活動など)に及ぼす影響のことを指すことが多い(例えば、Biehl et al. 2024)。中には、財務会計が及ぼす影響の範囲をもう少し広く捉えて、それが企業の投資活動における意思決定のみならず、財務活動における意思決定に及ぼす影響まで含めて論じる研究者もいる(例えば、Shakespear 2020)。いずれにせよ、通常、財務会計の多くの問題では、報告される情報(会計数値)がその情報の受け手(例えば、株主・株式投資家、債権者など)の意思決定(投資判断や与信評価など)に及ぼす影響について議論することが多いが、財務会計のリアル・エフェクトを考慮した研究では、財務報告が(会計上の判断にとどまらず)本来は財務報告システムが記録・報告の対象としている企業の投資・財務活動そのものに及ぼす影響に注目している点が重要になっている。

3.新リース会計基準とリアル・エフェクト

3.1.リース会計基準の変更

すでにご存知の方も多くいらっしゃるとは思うのだが、2027年4月1日以後に開始する年度からリース取引に関する新しい会計基準(『企業会計基準第34号リースに関する会計基準』、以下、「新リース会計基準」)が適用されることになっている(なお、「新リース会計基準」は早期適用も認められている)。書店やAmazonなどで調べてみると実務家向けの「新リース会計基準」の解説本が数多く出版されているようであり、YouTubeでも監査法人や会計士の方による解説動画が多数アップされていることから、新基準への関心の高さがうかがえる。これまで、日本基準のもとでは、実質的に購入とみなされる「ファイナンス・リース取引」については貸借対照表(以下、B/S)に資産・負債として計上される一方で、それ以外のリース取引である「オペレーティング・リース取引」についてはB/Sに計上されず、異なる取り扱いがなされていた。米国の会計基準ではAccounting Standards Codification (ASC) 842によって、国際財務報告基準ではInternational Financial Reporting Standard (IFRS) 16によって、すでに(一部の例外を除いて)すべてのリース取引がB/S上で資産・負債として計上されており、今回の「新リース会計基準」の導入によって、日本の会計基準においても同様の取扱いがなされることになっている。

3.2.新リース会計基準がもたらす企業行動への影響

これまでB/Sに計上されていなかったオペレーティング・リース取引が資産・負債として計上されることにより、オペレーティング・リース取引をかなり活用している企業は総資産利益率(ROA)のような収益性指標や自己資本比率や負債資本倍率(DEレシオ)のような安全性指標の悪化が懸念されている。もっとも、現在でも注記にはオペレーティング・リース取引の未経過リース料残高が示されているため、その金額を資産・負債の金額に加えることで、オペレーティング・リース取引が資産・負債としてB/Sに計上された場合の大まかな影響を把握することは可能である(例えば、大瀧 2022、p.113)。そのため、市場(株価など)はリース会計基準の変更に伴う影響をある程度は織り込み済みであるという見方もできる。しかしながら、そうであったとしても「新リース会計基準」の導入が企業に及ぼす影響は小さくないという見方もある。例えば、日本経済新聞の記事をみると、「新リース会計基準」が企業行動に及ぼす影響について、企業や専門家の見解が紹介されている。それをみると、オペレーティング・リース取引をかなり活用している企業の中には「新リース会計基準」が適用された後に適用前の数値も併せて開示することを検討している企業がいることが報じられており、「新リース会計基準」が企業の情報開示に影響を及ぼしそうであることがわかる1)。もちろん、これも興味深い論点であるが、ここで注目したいのは、「新リース会計基準」が企業の投資・財務行動に及ぼす影響である。先ほどと同じ記事の中では「新リース会計基準」適用後の財務状況の悪化に対応するために負債を削減することが「急務」と考えている企業のことが紹介されており、別の記事ではリース取引の活用を止め、その代わりとして資産の購入に切り替える企業が増える可能性があることを指摘する専門家の見方が紹介されている2)。これらはまさに、財務会計上の変化(会計基準の変更)が企業の投資行動や財務行動の意思決定(現実)に影響を及ぼしてしまう可能性があることを示している。

3.3.米国における先行研究からの示唆

日本に先行してオペレーティング・リース取引をB/Sに資産・負債として計上することを義務付けた米国では、その影響を調べた実証的研究が数多く発表されている。それらの研究の中でも、リース会計基準の変更が企業の投資行動や財務行動の意思決定に影響を及ぼしたことを示唆する結果が報告されている。例えば、Ma and Thomas (2023)は、実際に米国においてリース会計基準が変わり、オペレーティング・リース取引がB/Sに計上されるようになったことに伴い、オペレーティング・リース取引の活用が減り(ただし、それに代わって引き続きB/Sに計上しなくてよい短期リースの利用は増えた)、代わりに資本設備への投資(資本的支出)が増加したことを報告している。なお、彼らによれば、経営者たちが基準の変更と関連して懸念していたような業績の悪化や格付けの低下などのネガティブな影響は(平均的には)観察されなかったようである。また、Ferreira et al. (2025)は米国においてリース会計基準変更の影響を受けた企業がそうでない企業に比べて負債の削減を行ったという実証結果を報告している。これらはあくまでも公表されている研究結果の一部に過ぎないが、リース会計基準の変更が、財務諸表上の数値を変えるだけではなく、企業の投資・財務的な意思決定に影響を及ぼしたことを示すものとなっている。これらの研究を踏まえると、上述のとおり、日本においても「新リース会計基準」の導入によって、企業がその投資・財務行動を変化させる(させられる)可能性が高い。学生の頃、恩師から聞いた言葉のとおり、財務会計というものは、時として、経営者の会計上の判断や財務諸表利用者の意思決定に対する影響を超えて、実際の企業行動(現実)を変えてしまうもののようである。

4.たかが会計、されど会計

最近、世間(?)を賑わせている日本基準における買入のれん(以下、のれん)の非償却化をめぐる議論についても、財務会計が企業の投資行動(ここではM&A)に及ぼす影響をどのように考えるかが関わっている。今年(2026年)の3月3日に公益社団法人 経済同友会は「のれん非償却に関する意見」3)を公表し、日本の会計基準では20年以内で規則的な償却が求められているのれんを米国基準やIFRSと同じように償却を廃止し、非償却にすることを求めている。のれんを規則的に償却すると、毎期の会計利益がその分圧迫されることになるため、M&Aを行う上で障壁になってしまうというのがそのひとつの理由となっているようである(もちろん、理由はそれだけではない)。その背景には、のれんの事後の会計処理をどのようにするかが、企業のM&Aの意思決定に影響を及ぼす―つまり、リアル・エフェクトがある―という考え方がある。ただし、のれんの償却と非償却の違いがM&Aの意思決定に影響を及ぼすという見解に懐疑的な企業関係者の意見やのれんの非償却化によって国内のM&Aが増えるという主張を支持する学術的な証拠はないという主張もあり4)、識者の間でも意見の一致はみていない。

筆者も携わったサーベイ調査(一般的にはアンケート調査といった方がわかりやすいかもしれない)の結果でも、回答をしてくださった企業の約56%が(程度の差はあれ)のれんの会計処理のあり方がM&Aの意思決定に何らかの影響を及ぼす可能性が高いと考えていた一方で、約40%は影響を及ぼす可能性は低いと考えていたことが示されていた(徳賀他 2020、p.65、図表2-20)5)。のれんの会計処理がM&Aの意思決定に何らかの影響があると考えている回答者の方が16%ほど高い割合となっているものの、影響はないと考える回答者も多く、企業の中でも意見は異なっているといえそうである。さらに、仮にのれんの非償却化でM&Aが増えたとしても、ルーズな(企業価値を毀損するような)M&Aが増える可能性があるとか、買収企業による対価の払い過ぎが増える可能性があるとの見方(例えば、Bartov et al. 2021;Ramanna 2015)もあるので、話はさらにややこしい。一体、どの見方が正しいのか…いっそ社会実験でもしてみたら白黒付くのかもしれないが、そのような実験をすることは到底、許されない(あるいは、あまりにも困難である)だろう。

このように考えてみると、財務会計が企業の投資・財務行動の意思決定に及ぼす影響を考えることは興味深いけれども、一筋縄にはいかない問題であるとも感じる6)。そして、このようなことを考えているといつも思い出すのは、これもまた学部生のときに目にした(しかし、どこで目にしたかはもう忘れてしまった)「たかが会計、されど会計」という言葉なのである。

注釈

  1. 1) 『日本経済新聞』2024年9月4日朝刊、18面。
  2. 2) 『日本経済新聞』2024年9月14日朝刊、14面。
  3. 3) https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/2025/260303.html。
  4. 4) 前者は『日本経済新聞』2026年2月25日朝刊、22面、後者は『日本経済新聞』2025年9月19日朝刊、18面の記事で紹介されている。なお、記事の元になった識者に対する公聴会の様子は日本会計基準委員会(ASBJ)のサイト(https://www.asb-j.jp/jp/project/proceedings.html)に動画のリンクが掲載されている。
  5. 5) この調査ではあくまでものれんの会計処理のあり方がM&Aの意思決定に影響を及ぼすか否かだけを尋ねており、回答者が「どのような」影響があると考えているかは尋ねていない。なお、本文中の割合は「影響を及ぼす可能性が高い(または、低い)」と「どちらかというと影響を及ぼす可能性が高い(または、低い)」を合算した割合である。
  6. 6) さらに、財務会計情報の利用者(受け手)がそのリアル・エフェクトまで考慮に入れて意思決定をしていたら、今度は、企業の方もそのような利用者のことを考慮に入れて意思決定しているとしたら…と考えていくと話がますますややこしくなってくる。

(参考文献)

  • Bartov, E., Cheng, C. A., & Wu, H. (2021). Overbidding in mergers and acquisitions: An accounting perspective. The Accounting Review, 96(2), 55-79.
  • Biehl, H., Bleibtreu, C., & Stefani, U. (2024). The real effects of financial reporting: Evidence and suggestions for future research. Journal of International Accounting, Auditing and Taxation, 54, 100594.
  • Ferreira, P., Landsman, W. R., & Rountree, B. (2025). Capital structure effects associated with the new lease accounting standard. Management Science, forthcoming.
  • Ma, M. S., & Thomas, W. B. (2023). Economic consequences of operating lease recognition. Journal of Accounting and Economics, 75(2-3), 101566.
  • Ramanna, K. (2015). Political standards: Corporate interest, ideology, and leadership in the shaping of accounting rules for the market economy. Chicago: The University of Chicago Press.
  • Roychowdhury, S., Shroff, N., & Verdi, R. S. (2019). The effects of financial reporting and disclosure on corporate investment: A review. Journal of Accounting and Economics, 68(2-3), 101246.
  • Shakespeare, C. (2020). Reporting matters: the real effects of financial reporting on investing and financing decisions. Accounting and Business Research, 50(5), 425-442.
  • 大瀧晃栄(2022)『企業会評価のための企業会計の基礎―動的理解とその活用―』、税務経理協会。
  • 徳賀芳弘・宮宇地俊岳・山下知晃(2020)『のれんの会計処理に関する調査』、京都大学経済学研究科ディスカッションペーパーNo.J-18-004。