個別業法における外資規制と振替法における名義書換の拒否
福本葵
1 外資規制と関連事例
1961年の設立と同時にOECDでは、資本移動自由化に関する行動規約〔CLCM(Code of Liberalisation of Capital Movements)〕を定めており、加盟国には直接投資等の資本移動自由化への貢献が求められている。他方で、雇用の創出や国内産業の発展のために、外資誘致が必要とされる産業がある一方、国家安全保障や国策上の理由により外資を規制すべき産業分野も存在する。
日本の外資規制には、外国為替および外国貿易法(以下、外為法)によるものと、個別業法によるものとがある。個別業法による外資規制には、鉱業に対する鉱業法、通信業に対する日本電信電話株式会社等に関する法律(以下、NTT法)、放送業に対する電波法および放送法、水運業に対する船舶法、航空運輸業に対する航空法および貨物利用運送事業法が挙げられる。個別業法のひとつである放送法による外資規制は、過去に東北新社の免許取消問題やフジ・メディア・ホールディングスによる外資規制違反の事例で広く注目された(図表1)。
図表1 フジ・メディア・ホールディングスの放送法違反


これらの法律における外資規制の様態は、①国籍規制(事業の許可を申請する者が外国人等であってはならない)②外国籍役員割合規制(外国籍を有する役員を一定割合以下に制限する)、および③出資規制(外国人等の出資を一定割合以下に制限する)の3つがある。
本稿では、個別業法による外資規制に対象を限定し、さらに規制様態の中でも出資規制に焦点を当てる。また、個別業法の対象企業については、外国人等保有割合が比率制限を超過した場合、株主名義書換を請求拒否することが可能であるとされているが、本稿ではとりわけこの点に関する実務対応について検討する。
2 電波法・放送法における外資規制
(1)電波法・放送法における外資規制の理由・目的
OECDでは、資本移動自由化に関する行動規約を定めており、加盟国には直接投資を含む資本移動自由化に貢献することが求められている。しかし、国策等の理由から、諸外国においても例外的に規制が認められている業種が存在し、放送業もその一つである。放送法による外資規制の目的については、例えば、『放送法逐条解説(新版)』において、「国際条約に基づき我が国に分配された有限希少な周波数を利用するものであり、周波数の利用は原則として自国民を優先するものであること」や(放送が)「我が国の世論形成、固有文化の創造に大きな影響力を有するものであること」等が指摘されている⑷。また、総務省が2005年4月14日に発表した「放送局に対する外資規制」においても、地上放送について、「国民的財産である公共の電波を使用するものであり、その有限希少性が強い」ことや「政治、文化、社会等に大きな影響力を有する言論報道機関として重要な役割を担う」こと等が示されている⑸。
(2)外資規制の対象者(どのような事業者が対象となるか)
わが国における放送事業者に対する外資規制の様態は図表2の通りである。放送は基幹放送と一般放送に分類される。基幹放送は基幹放送普及計画の対象となる放送であり、一般放送はそれ以外を指す。
外資規制は、放送法・電波法に基づき、放送業務を行う者や無線局を開設・運用する者に課される。認定基幹放送事業者とは、基幹放送の業務を行うことについて認定(放送法第93条第1項)を受けたソフト事業者を指す。一方、基幹放送局提供事業者とは基幹放送局の免許(電波法第4条)を受けた者であって、基幹放送局設備を認定基幹放送事業者の基幹放送の業務の用に供するもの(いわゆるハード事業者)を指す。
特定地上基幹放送事業者とは、自己の地上基幹放送の業務に用いる放送局の免許(電波法第4条)を受けた者(いわゆるハード・ソフト一致事業者)を指す。
また、認定放送持株会社とは、1以上の地上基幹放送の業務を行う基幹放送事業者を子会社とする会社であって2以上の基幹放送事業者を関係会社とする株式会社等を指す。前述のフジ・メディア・ホールディングスは、2008年10月に認定放送持株会社となっている(図表2)。
図表2 わが国の放送事業者に対する外資規制

(3)外資規制の内容
出資規制の様態としては、まず、外国人等の出資が対象事業者の一定の議決権割合を超えると、対象事業者の免許・認定取消しの必要的事由となるというものである。この「一定割合」、すなわち比率制限は規制対象の事業者の類型によって異なっている。(地上基幹放送)認定基幹放送事業者、(地上基幹放送)基幹放送局提供事業者、(地上基幹放送)特定地上基幹放送事業者、(地上基幹放送)認定放送持株会社、および(衛星基幹放送)認定基幹放送事業者は5分の1以上が基準となる。一方、(衛星基幹放送)基幹放送局提供事業者、一般放送局事業者は3分の1以上が基準とされている。
さらに、5分の1以上の出資規制については、
1.直接出資規制のみ課される事業者
2.直接出資規制に加えて間接出資規制も課される事業者
に分類される(放送法第93条第1項第7号ニ及びホ並びに第159条第2項第5号イ及びロ並びに電波法第5条第1項第4号並びに第4項第2号及び第3号)(図表2)。
間接出資とは、
条件1「外国法人等による直接株主に対する出資比率が10%以上であって」、
条件2「その直接株主の放送をする無線局に対する出資比率が10%以上である」、
の両方を満たす場合に限り、外国人等が直接株主を通じて間接的に保有する議決権割合を計算するものである。これらのいずれかの条件を満たさない場合には、当該直接株主を通じた議決権の間接的保有分については規制の対象外となる。
両条件を満たす場合には、間接的に占める議決権の割合は、直接株主の放送をする無線局に対する議決権の割合に、外国法人等の直接株主に対する議決権の割合を乗じて決定される(図表3 A×B)。
そして、直接出資と間接出資の合計(A×B+C)が5分の1の比率制限を超えた場合には、免許・認定取消しの必要的事由となる(放送法第93条第1項第7号ホ、放送法第159条第2項第5号イ、電波法第5条第1項第3号、放送法施行規則63条、186条(特例))。
なお、間接出資規制には、その潜脱行為を防止するために、いくつかの特例が設けられている⑹。また、間接規制は、2005年10月26日の電波法と放送法の改正で導入されたものである。
図表3 間接規制

3 株式等振替制度における名義書換の拒否
(1)名義書換拒否制度
上場会社等である基幹放送事業者、基幹放送局提供事業者および認定放送持株会社は、株式会社証券保管振替機構から総株主通知を受けた場合において、外資規制に係る欠格事由に該当することとなるときは、株主名簿への記載・記録を拒むことができる(放送法第116条第1項及び第2項・第125条第1項及び第2項・第161条第1項及び第2項)。
2009年1月5日の株券電子化以前、保管振替制度内の株式と同制度外で株券として保有される株式が併存していた。外国人等保有規制銘柄については、期末に保管振替制度から引き出して株券として保有する実務が一般的であり、その後に株券の名義書換を行う際、比率制限を超過している場合には、名義書換請求を拒否することが可能であった。この場合、名義書換は行われないため、当該株主は会社に対抗できず、会社は、株主総会関連書類や剰余金配当等を株主名簿上の株主に送付していた。
2009年1月5日以降の株式等振替法下では、発行会社は、証券保管振替機構からの総株主通知をもとに、株主名簿への記載拒否を行うという手続きとなった。振替法下、外資規制銘柄が比率制限を超過した場合、どのように取り扱われるであろうか。比率制限を超えた株式に対して剰余金配当は支払われるであろうか。
外国人保有制限銘柄においても、まず対象会社は、証券保管振替機構から基準日時点での総株主通知を受領する。ただし、個別業法は振替法の特別法として位置づけられ、これらの個別業法が適用される上場会社については、外国人等の保有する議決権の合計が、比率制限以上となるときは、株主名簿の名義書換を拒否できると定められている(航空法120条の2第2項、放送法116、125、161条、NTT法6条2項)。
そのため外国人保有制限対象銘柄は、前回基準日の株主名簿(今回の総株主通知によって更新される前の株主名簿)と、今回の総株主通知で通知された内容を比較し、そのいずれか少ない方(以下、「記載・記録優先株式の数」)を記載・記録する。
次に、「記載・記録優先株式の数」が外国人等議決権割合の比率制限未満である場合、記載・記録されなかった数に応じて按分し、特定の上、記載・記録する。按分後、残余の株式は抽選し、特定の上、記載・記録する。
一方、外国等議決権割合が比率制限以上となる場合、「記載・記録優先株式の数」で記載・記録された数に応じて按分し、特定の上、記載・記録する。按分後、残余の株式は抽選し、特定の上、記載・記録する。この特定作業を経た後、特定された外国人等株式を当該会社の株主名簿に記載・記録する。判定の結果、記録等がなされなかった外国人等の株式は名義書換が拒否されたこととなる⑺。
したがって、外国人等の保有制限銘柄に該当する上場会社は、証券保管振替機構からの総株主通知に基づき、株主名簿を更新するが、株主名簿への名義書換を拒否した外国人等がいる場合には、証券保管振替機構の「株式等の振替に関する業務規程」に基づき、証券保管振替機構に対し、対象者、拒否対象株式数等の情報を通知する(業務規程第153条)。名義書換拒否結果の通知を受けた証券保管振替機構は、対象となった外国人等の株式数を通知した口座管理機関に対して、対象者や拒否対象株式数等の情報を通知する(図表4)。
図表4 外資規制銘柄の総株主通知フロー図

(2)剰余金配当の受け取り
名義書換を拒否された外国人保有株式にかかる剰余金配当はどのように取り扱われているであろうか。
フジ・メディア・ホールディングスは2008年12月25日、2009年1月5日以降、基準日株主が行使できる権利のうち議決権以外の権利について、総株主通知により通知される基準日時点の株式保有者がこれを行使できるものとし、同3月31日を基準日とする配当金より、議決権比率が20%以上となり名義書換を拒否する外国人に対しても配当金の支払いを行うと発表した⑻。
日本テレビホールディングスは、2024年2月1日、同3月31日を基準日とする剰余金より、名義書換を拒否された外国人等に対し支払いができるよう定款を変更すると発表した⑼。
その他、2024年には、テレビ朝日ホールディングスやテレビ東京ホールディングス等も定款変更を行う等して、名義書換を拒否された外国人等保有株式に対しても剰余金配当を支払うと公表している。
上場会社において、株主名簿上の名義の記載・記録は、その上場株式の譲渡についての、その上場会社に対する「対抗要件」と定められている(振替法161条3項に基づく会社法130条1項の読替え)。つまり、会社は株主名簿上の株主を株主として取り扱うことができる。
一方で、比率制限を超えた外国人等が保有する株式について、会社が議決権(それに伴う権利)以外の権利を認めるという解釈は可能である。
日本航空株式会社も比率制限を超える外国人等に対し、剰余金配当を行うと発表したが、「航空法においては外国人等による議決権行使について制約するものの、剰余金の配当という経済的便益まで制約する趣旨でなく、外国人持ち株調整株式に対して配当を行うことは支障がないと考えられます。」と説明している⑽。一方で、株主名簿上の株主でない者に剰余金の分配を行うことに関しては、既存株主からの訴訟リスクがないわけではない。
(3)外国人保有制限銘柄の期中公表
名義書換を拒否される可能性のある外国人等にとって、期中の外国人の持ち株情報を把握することは極めて重要であると考えられる。名義書換を拒否され、その分の議決権が行使できない可能性があり、また、すべての対象企業が名義書換拒否された株式に対して剰余金配当を支払うとは限らないからである。
そこで、証券保管振替機構では、ホームページ上で、銘柄ごとに「外国人保有制限銘柄期中公表」を行っている。社債、株式等の振替に関する法律施行令第28条第2項から第4項には、振替口座簿の記録事項が規定されており、口座管理機関は対象会社の外国人等の持ち株情報を証券保管振替機構に提出している。証券保管振替機構は口座管理機関から提出された情報をもとに「外国人保有制限銘柄期中公表」を作成し、これによって外国人投資家等はほぼ正確な数字を把握できる。
おわりに
個別業法による外資規制は、諸外国においても広く採用されており、国家安全保障や公共性の確保といった国策上の理由から必要とされる規制である。他方で、外国人投資家を含む多様な株主との対話や投資を通じて企業価値の向上を図ることは、上場企業として本来望ましい姿であるといえる。
2009年1月5日以降の株式等振替法下では、発行会社は、証券保管振替機構からの総株主通知をもとに、株主名簿への記載拒否を行うという手続きとなった。こうした環境整備のもと、名義書換を拒否した株式に対しても剰余金配当を支払うという実務の広がりは、資本市場の変化に即応し、企業として適切に利益配分を行おうとする動きと位置づけられる。
謝辞
本稿は、令和七年度学校法人帝塚山学園特別研究費の助成を受けたものである。同支援に厚く御礼申し上げます。
また、株式会社証券保管振替機構の担当者の方々から多くの有益な教示を賜りました。厚く御礼申し上げます。
注釈
- ⑴ 完全子会社化の後2013年10月、(株)フジ・メディア・ホールディングスは1株を100株とする株式分割を実施した。この株式分割を反映すると分割前の50株は分割後の5,000株に相当する。
- ⑵ ある会社Aが他の会社Bの株式を25%以上有している場合、BのAに対する議決権はなくなる(会社法308条かっこ書)。従って、(株)ディ・コンプレックスの有する(株)フジ・メディア・ホールディングス株式50株(分割後の5,000株に相当)の議決権は全体から控除しなければならない。
- ⑶ 情報通信分野における外資規制の在り方に関する検討会事務局第1回配布資料、「資料1-3放送分野における外資規制違反の事例」(2021年6月)、令和3年4月15日(木)衆・総務委員会:松尾明弘議員に対する答弁(木村内閣法制局第一部長)。この総務省の判断については、「しかし、それでは、違反状態を隠蔽し、解消してから社会に明らかにするといった機会主義的行動を慫慂することになり、不都合である。」といった意見もみられる。(林秀弥「外資規制をめぐる放送法上の諸問題」日本エネルギー法研究所月報第271号2頁(2021年8月31日))この論文では、外資規制違反状態是正のための猶予期間を設けることや段階的不利益処分により、違反状態の是正を間接的に強要する措置の導入を提言している。なお、平成22年放送法改正によって「取消猶予制度」が導入された。
- ⑷ 金澤薫監修、放送法制研究会編著『放送法逐条解説(新版)』情報通信振興会、2020、219頁。
- ⑸ 総務省「放送局に対する外資規制」(2005年4月14日)。
- ⑹ 外国法人等が占める直接株主の議決権割合が2分の1を超える場合には、外資系日本法人の放送をする無線局に対する議決権の割合が、間接議決権割合とされる。(この場合、他の外国法人等がいても、その外国法人等については、間接議決権を計算しない。)(放送法施行規則第63条第1項但し書)。議決権10分の1未満の特例により、複数の会社に分散し議決権割合を10分の1以下にしても合算される(放送法施行規則第186条3項)。子会社を通じて投資しても同一法人とみなされる(実質的支配の特例、放送法施行規則第186条4項)。
- ⑺ 放送法施行規則第88条2項「通知を受けた時点の株主名簿に記載され、又は記録されている者が有する株式(前号に規定する株式を除く。)については、当該名簿に記載され、又は記録されている株式の数と通知に係る株式の数のうち、いずれか少ない数(以下この号において「記載・記録優先株式の数」という。)」第3項「前二号の規定により記載し、又は記録し、及び次条第二項を適用した場合においてなお欠格事由に該当することとならないときは、外国人等が有する株式のうち前号前段の規定による記載又は記録がされなかつたものについて、欠格事由に該当することとならない範囲内で、その数に応じて一株単位で案分して計算することにより記載し、又は記録する株式を特定し、なお残余があるときは、一株単位の抽せんにより記載し、又は記録する株式を特定して記載し、又は記録する。」
- ⑻ フジ・メディア・ホールディングス「外国人等の占める議決権の割合が20%以上となり、名義書換を拒否された外国人等に対する配当金の支払いについて」(2008年12月25日)。
- ⑼ 日本テレビホールディング「株主名簿外の外国人等株主への配当支払いについて」(2024年2月1日)。併せて、外国人等の議決権計算に伴って配当を受け取れる外国人等の株式が減少するリスクがあることから、自粛してきた自社株購入についても機動的に行っていきたいとしている。
- ⑽ 日本航空株式会社「外国人等の株主名簿への記録及び配当金の支払いについて」(2012年11月2日)。
(参考文献)
本文中、脚注で挙げたものの他、
- 岩坪昌一「放送法及び電波法の一部を改正する法律」『情報通信政策研究』第7巻第1号
- 落合翔「放送事業者に対する外資規制―規制をめぐる国内外の諸相―」国立国会図書館、情報と調査―Issue brief-No.1174(2022.2.25)
- 神保寛子「外資規制に関する各種法令の基礎および今後の動向」ビジネス法務、2022年2月号
- 林秀弥「外資規制をめぐる放送上の諸問題」日本エネルギー法研究所月報、271号2021年
- 林秀弥「放送法等の外資規制をめぐる諸問題」『デジタル変革時代の放送メディア』勁草書房63-86頁、2022年11月
- 廣瀬信己「外資誘致と外資規制」国立国会図書館、情報と調査―Issue brief-No.600(2007.11.8)
- 堀内勇世「電波法・放送法の外資規制に係る改正」大和総研、2005年10月28日
- 横山淳「いまさら人に聞けない外資規制(外国人株式保有制限)のQ&A」大和総研、2012年10月5日