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1752号(2025年10月)

米国商品先物取引委員会(CFTC)の政策課題
~取引の24時間化、永久先物、ダイレクト・アクセス~

志馬祥紀

1 はじめに

2025年6月、米国の商品先物取引委員会(CFTC)の暫定委員長による、米国先物市場及び規制当局に関する講演が行われた(Pham, C. D. (2025))⑴。

当該講演は、CFTCが政策上関心を有する事項について細かく現状や見解が示されており、業界関係者や政策ウォッチャーにとって意義ある内容である。

本稿では、同講演内容中、筆者の視点から興味深い点を中心に取り上げ(主に「3暫定委員長による政策課題の認識」)、補足説明を各項目に加えることで、CFTCの政策認識や課題について説明する。

2 商品先物取引委員会の歴史

(1)歴史的経緯

1936年、米国議会は、商品先物取引所(以下、取引所)における取引規制や市場操作の防止等を目的として商品取引所法(CEA)を制定した。(当時商品先物取引委員会(CFTC)は存在せず)議会は農務省にCEAの要件を管理する権限を与えた。

1974年、議会が「先物取引の規制を強化し、取引所で取引される全ての農産物およびその他商品を規制下に置く」ために独立機関としてCFTCを設立した。これにより同年以降、(証券取引委員会(SEC)と類似した形態を有する)CFTCが、先物取引に対する権限を有してきた。

34年証券取引法(取引所法)が「SECと複数の専門的『自主規制機関』(SROs)による同時並行的かつ協力的な規制構造を規定」するように、CEAは先物取引における自主規制を可能にする「2層構造」を提供している。

しかし議会は、CFTCが新しい任務を遂行し、業界の自主規制に対する従来の監督を継続するために必要な人的・財政的リソースの拡大を把握できなかった。特に、理論上及び実践上の業界の自主規制に関連するリスクに対抗するための法定権限と各種リソース不足が指摘されてきた。

2007年から2008年にかけての金融危機は、従来は市場に委ねられてきた分野の規制強化の必要性を示唆した。金融危機の主因とみなされている店頭(OTC)デリバティブ取引やスワップ取引に対処するために、2010年ウォール街の透明性と説明責任に関する法律として知られるドッド・フランク・ウォール街改革及び消費者保護法(ドッド・フランク法)のタイトルVIIが制定され、CFTCに店頭デリバティブとスワップを規制する権限が与えられた。

(2)CFTCの性格・状況(暫定委員長の講演内容を中心に)

商品先物取引委員会(CFTC)は設立以来、先物業界の監督に関しては無干渉の姿勢をとってきた。

先物市場の性質や政治的・市場的圧力から、CFTCの先物業界に対する従来の規制アプローチは、SECの証券業界規制に対する実践的である一方、自主規制に関して緩やかで自由放任的である⑵。

先物取引の範囲が農産物やその他の商品だけでなく、国債や外国通貨等の市場と結びついた取引にまで拡大したにも関わらず、(CFTCは規制権限の拡大を試みていたが)2000年代は業界に対する寛大な対応が続いた。

しかしドッド・フランク法はCFTCの市場に対する権限を拡大、同時に規制対象の主体数を増加させた。

同法タイトルVIIは、大半のデリバティブをデリバティブ清算機関(DCO)を通じて清算し、スワップ取引についてもその大半をスワップ執行ファシリティー(SEF)を通じて取引することを義務付けている。同法はCFTCに、(CEAが従来CFTCに先物取引所や協会の規制を課してきたのと同様に)これらの団体の登録と活動の監視を課している。

しかし、CFTCには、自主規制機関(SRO)がどのように規則を制定しているかを監視することを含め、これらの機能を効果的に果たすための時間も資源もない。そのため実務について、CFTC監督下のSRO(取引所(DCM)や全米先物協会(NFA)等)に活動を依存してきた。ドッド・フランク法制定後も新旧のSROへの依存度は高まっている⑶。

3 暫定委員長による政策課題の認識

(1)市場の規制方針

米国のデリバティブ市場が効果的に機能している理由は、規制当局と自主規制機関(SRO)の協力関係の存在による。デリバティブ市場は、全米先物協会(NFA)とCFTCに登録された取引所(DCM)、デリバティブ清算機関(DCO)、スワップ執行ファシリティー(SEF)
が、証券市場においては金融業界規制機構(FINRA)とSEC登録の全米証券取引所及び清算機関が、各々の役割を果たしている。

(2)新商品導入に対するCFTCの姿勢と自己認証

① 自己認証とは

自己認証とは、CFTCの原則主義に基づく規制枠組みの根幹であり、取引所やスワップ執行ファシリティー(SEF)が新商品の迅速な上場を可能とする制度である。自己認証において、取引所またはSEFは、上場する新商品が商品取引法(CEA)及びCFTC規則に準拠していることを証明する必要がある。また、上場後も取引所またはSEFは、継続してCEA及びCFTC規則に基づく義務を負う。

自己認証に基づいて取引可能とされる新商品は、適切な保護措置や安全性が欠いていることを意味しない。むしろ、自己認証された商品は、委員会によって正式に承認された商品と同様に、CEA及びCFTC規則に完全に準拠していなければならない⑷⑸。

② 取引所及び清算機関の自己認証プロセス

米国先物市場における自主規制制度は、自主規制機関(SRO)がCFTCの規制の枠組みに従い、その自主性と柔軟性を発揮し、市場の完全性を確保するよう設定されている。例えば、取引所は新商品の上場・取引について、CFTCへの申請提出から一営業日後に自己認証済みの新商品を上場・取引を開始したり、改正された新しい規則を施行することが可能である。

もしCFTCが、自己認証された取引を停止したり、取引所や清算機関の登録を一時停止(または取消)しようとすれば、CFTCが準司法権限を行使する行政裁判所としての内部審理(裁定審理)を経る必要がある(実際にCFTCが同種措置を講じたことはない)。また、訴訟において裁判所命令を取得しない限り、法やCFTC規則への遵守を強制することはできない。これは、執行措置及びその他の場合も同様である。

自己認証は関係者相互の信頼に基づいて構築されており、この信頼が損なわれれば市場、市場参加者、国民に悪影響を及ぼす。このような規制当局による非介入型の自己認証が機能するためには、登録された組織は「予期せぬ事態のない」環境で事業を行うことを約束し、CFTCと協力して問題解決に取り組む必要がある。

自己認証のプロセスは商品取引所法(CEA)第40条の規制に基づいている。商品取引所法は、CFTCが「取引施設、清算システム、市場の参加者および専門家による効果的な自己規制システム」の監督を通じて公共の利益を擁護することを義務付けている。

同第40条はデリバティブ市場における自主規制枠組みの基盤を成すもので、新規契約の上場基準や、CFTCに登録された団体(自主規制機関を含む)の規則の制定または改正に関する基準を定めている。これらの団体は、その会員に対して強制力のある規則を有している。

第40条は、取引所、SEF、清算機関、スワップ・データ・レポジトリー(SDR)等の登録機関がCFTCに提出する新規商品、規則、規則改正の認証及び承認に関する法であり、2000年の商品先物近代化法に基づき制定され、2011年のドッド・フランク法制定時に改正された。

③ イノベーションと市場構造に関するパブリック・コメントの募集

CFTC規制下の取引所と清算機関に関する規制は柔軟である。取引所や清算機関は、CFTCによる大幅な規制を変更することなく、新しい取引や清算方法の採用が可能である。一方、柔軟性については責任を持って対処する必要性が伴う。

イノベーションと市場構造に関するCFTCの規制を支援し、市場における専門知識と知見を収集・検討するため、CFTCはパブリック・コメント(Request For Comments)を募集する。

(3)24時間365日取引(24/7 Trading)

取引の24時間365日化(24/7、以下、「24時間化」)に関する主な課題は、既に明確化されている。

CFTCの規制変更は不要であり、既に仮想通貨分野における24時間化は2025年5月に開始されている(Coinbase Derivatives(DCM)とNodal Clear(DCO)。ただし、CFTCは、市場への広範な影響を考慮
し、2025年4月に、24時間化に伴うデリバティブ取引と清算の投資家の利益、リスクに関するパブリック・コメントを募集した。募集は既に終了し、CFTC職員は寄せられたコメントを精査中である。以下は主要な事項に関する状況と寄せられたコメントである。

① 担保の交換

一定程度、デリバティブは既に週末等の取引活動が低調な時間帯にも取引されている。しかし週末に投資家のポジション(建玉)が保持されている場合に、担保の交換は実施されないことから、包括的に24時間取引が開始される場合には、新たな対応が必要となる。

その一部は、市場運営上のスケジュールに関連している。例えば、取引は継続的であっても、時間の経過に伴いリスクが蓄積されていく中で、一定時点におけるポジション等の再評価、清算業務中の担保の交換といった定期的な処理が必要となる。

当該リスクは、顧客の清算がFCM(先物仲介業者)を通じて行われる場合、清算機関が短期の信用リスクを負担することで軽減される可能性がある。週末に他の類似市場が立会中であれば、市場流動性に関連するリスクが軽減され得る。この場合、24時間365日の現物市場へのアクセスが可能となれば、より広範な流動性プールが確保される。

② 運営上の課題

パブリック・コメント結果では、24時間365日取引化は、取引を行う(または仲介する)FCMだけでなく、全市場参加者のコスト負担が増加すると強調されている。例えば、これらの市場構造の変化は、
「資産管理者とFCM間の関係など、市場参加者間の関係の再交渉と再文書化を必要とする可能性がある」。また「清算機関、取引所、FCM、その第三者サービス提供者、資産管理者など、関係するあらゆる主体が24時間365日体制で人員を配置する必要がある」との指摘がある。

プラットフォームのメンテナンスに焦点を当てれば、市場が開いている間、リソースの投入が重要となる。これには、予期せぬ障害の対応、パッチ管理が含まれる。ただし、一部のコメントにおいて、これらの困難の一部は、毎日一定のメンテナンス時間を設定する(例えば24時間週6日や24時間週5日の取引等、真の24時間365日取引としない形)との指摘もある。

③ 市場状況、流動性リスク、信用リスク

週末の取引量が少ない時間帯に、流動性の低下、スプレッドの拡大、ボラティリティの増加、価格透明性の低下が発生し、リスクカバーに関する懸念がある。

CFTCは、商品毎に、他の市場(現物市場、レポ市場)の利用可能性を検証、デリバティブの価格設定の可能性を判断する必要がある。

高ボラティリティと低流動性が組み合わさり、担保資産の流動性が限られた状況下で、FCMと清算機関がポジションの清算や関連リスクのヘッジが限定される時間帯における、デフォルト発生はリスク管理を困難にする。

流動性リスクと信用リスクにおける懸念は、週末の市場動向に対する、担保の追加が必要となる。

これら対応はコストが伴う。複数の取引所が24時間365日化した場合、過剰な証拠金の発生は、市場参加者の資本効率性を低下させる可能性がある。

一部のコメントは、高ボラティリティ時における追加コスト(自動清算)の可能性を懸念している。例えば、担保価値が高ボラティリティによって減少した場合、投資家の建玉が予期せず自動清算され、投資家がヘッジ手段を喪失する可能性がある。

なお暫定委員長は以前、24時間365日取引可能な既存の現物市場が存在し、週末期間中の流動性プールを拡大する価値について指摘している(Pham, C. D. (2023))。同見解に沿い、CFTCスタッフがこれまで確認した提案は、現物市場が存在し、継続的な取引と十分な流動性の厚みを持つ暗号資産商品のみを想定している。CFTCは、現時点において暗号資産クラス以外の24時間取引の提供計画を、把握していない。

伝統的な商品(例えば農産物の先物取引)の場合、流動性や価格に関する懸念は、より詳細な検討が必要となる。週末取引において、未決済建玉や取引量が限られた契約を上場することは、価格を歪め、清算リスクを高める可能性がある。これは、大規模なポートフォリオを有する投資家の多くが指摘する事項である。

本年にCoinbase Derivativesで暗号資産デリバティブの24時間取引が開始されたが、同商品の現物市場は既に24時間取引が実施されており、これら取引の最初の数週間の状況は、有用なデータを提供している⑹。

24時間化がもたらすリスクが注目される一方、CFTCは週末の取引が予期せぬイベントへの対応としてリスクを軽減する可能性についても認識している。地政学的、気象関連、またはその他の要因による各種イベントは週末に発生する可能性があり、市場参加者が週明けまで対応を待つことを強制すると、それ自体のリスクが生じる。ついては市場イノベーションのメリットを検討し、デメリットだけに焦点を当てるべきではない。

(4)永久先物取引(perpetual futures)

本節では暗号通貨市場における永久先物取引(perpetual futures)について説明する。

永久先物は人的資本や不動産といった流動性の低い資産を対象とするデリバティブとして提案されたが、最近ではITの進展に伴い、暗号通貨分野での永久先物が開発された。

暗号通貨の永久先物は、比較的低い手数料と有効期限が存在しないという特徴を持つ新しい金融商品として登場した。現在では、永久先物の取引量はビットコインの現物市場を上回っている。

① 永久先物の対象(補足)

永久先物の概念は1992年にロバート・シラーによって提案された(Shiller, R. (1993))。

シラーは、商業用不動産、人材、農場といった流動性の低い資産のためのデリバティブ市場を創設するために、永久先物を提案した。

例えば、商業用不動産の取頻度は比較的低いため、シラーは「商業用不動産の賃貸のいくつかの指標に基づく永続的な先物取引」を提案した。賃料(レント、暗号通貨市場では資金調達レートとも称され
る)は通常、取引期間が数年間にわたるために、シラーは賃料キャッシュフローの平均値に基づく現在価値を提案した。この指数はその
後、永続的な先物として取引され、賃料指数に基づく短期売りから長期買いへの日次の決済によるレントが支払われている。

永久先物は、先物取引の対象となる資産(価格指数)に応じて、ロング/ショート保有者に配当またはレントを支払う。

これらの永久先物取引は、公正市場価値の決定が難しい資産のヘッジを可能にし、特定のレントに関する単一の契約は、契約が満期にならないため、「時を経ても標準として採用できる」。伝統的な先物取引では、直近限月(満期日までの期間が最も短い取引)に取引が集中する傾向があり、より期限の長い期先限月取引は十分な流動性を欠くとの特徴がある。一方、永久先物は、単一の取引(限月が存在しない)であり、全ての取引が集約されることから、伝統的先物取引における投資家のポジション(建玉)の限月間移転(ロールオーバー)が不要となる。

永久先物の概念は仮想通貨市場で採用されたが、その利用状況は、シラーの提案とは異なっている。シラーは永久先物における証拠金制度の利用、レバレッジの採用を予見していたが、主要な仮想通貨デリバティブ取引所で見られるような高レバレッジ状況(125倍)は予測していなかった。

② 暗号通貨の永久先物(補足)

2020年の仮想通貨業者Binanceの調査によると、Binanceの顧客の79%が20倍以上のレバレッジで取引しており、19.6%が100倍以上のレバレッジを使用している。顧客中、個人トレーダーには高レバレッジ取引が最も人気があった。

永久先物とは異なり、伝統的先物には満期日がある。従来の先物には満期日があるため、満期日までに価格が収束しない場合、裁定取引の機会が存在する⑺。

永久先物は、先物価格が正確に価格付けされることを保証するために、2つのメカニズム(「レント(資金調達レート)」と「マーク価格」)を採用している。

③ 資金調達レート(Funding Rates、レント)(補足)

永久先物は、資金調達レート(レント)・メカニズムを通じて現物価格に追随する。同メカニズムは、満期日がない永久先物に不可欠な要素である。

資金調達レート(レント)とは、トレーダーが一定間隔ごとに受け取る(または請求される)金額である。大半の取引所は8時間毎に永久先物-現物間の乖離を修正しているが、異なる間隔の取引所もある。

この再決定された時間に永久先物の価格がスポット市場を下回っている場合、永久先物の売り手は、買い手に資金調達レート(レント)を支払う(その逆も同様)。このメカニズムを通じて、トレーダーは
「資金調達レート(レント)」を通じて永久先物価格をスポット価格に押し上げる経済的動機付けを受けることで、永久先物の買いポジションの購入(または売りポジションの取得)が促進される。さらに、資金調達レート(レント)の計算はマーク価格の影響を受ける。

④ マーク価格(補足)

伝統的な先物取引では、先物価格に基づき証拠金必要額が決定される。永久先物では、マーク価格がトレーダーの証拠金必要額を決定するメカニズムの要素として機能する。

マーク価格の目的は、特定の先物取引について「流動性が低い」「ボラティリティが高い」「スポット市場で市場アクセスや機能停止の問題が発生した」等の場合における、投資家ポジションの不要な清算の回避にある。

マーク価格の主な決定要因は「価格指数」である。これはHuobi、Bittrex、BitMEX等の主要な現物市場から算出された価格であり、相対的な取引量に基づいてウェイト付けされている。

マーク価格の決定について、例えば、現物市場と永久先物市場の間で価格差が小さい場合、証拠金所要額は永久先物価格に基づき決定される。

現物市場と永久先物市場の間で価格差が大きい場合、スポット市場に基づいて証拠金所要額が決定されます。このメカニズムは、永久先物における急激な価格変化からトレーダーを保護し、現物市場がトレーダーのポジションと逆方向に動いた場合にのみ、トレーダーが清算される。

さらに、マーク価格が流動性の低い先物取引トレーダーの証拠金所要額の決定に使用されることで、流動性の低い永久先物取引におい
て、不正なトレーダーによる市場操作を阻止する。

⑤ CFTCの永久先物への姿勢

永久先物取引における特徴の一つは、リテール取引の増加である。ブローカーを介さない直接アクセス型リテール取引と清算量は指数関数的に成長しており、市場はリテール向けの新商品導入に意欲的である。

2025年に入り、複数の取引所が永久先物の上場を自己認証した(この自己認証プロセスにおいて、CFTCの承認は不要)。その結果、永久先物取引は2025年4月Bitnomial Perpetual Bitcoin USD Centi Futuresが上場、取引を開始している。

CFTCは、CFTC規制下の市場における永久先物の取引・清算について、潜在的な用途、取引のメリット、リスクに関するパブリック・コメント(Perpetuals RFC)を募集した。現在パブリック・コメントは締め切られ、CFTCスタッフがコメントを分析している。

永久先物に関するコメントには、最終決済において現物受渡を行う商品をブローカー経由で投資家が取引する、伝統的で組織化された市場に、性格の異なる商品を導入する複雑さが反映されている。にもかかわらず、寄せられたコメントには、今後、市場と規制当局の視点を整理する上で参考となるいくつかのテーマが反映されている。

多くのコメント提出者は、暗号資産市場における永久先物を支持している。彼らは、永久先物は、ポジションを維持するために異なる限月間でのロールオーバーの必要がなく、継続的で低コスト、現物市場と差のないエクスポージャーが利用できると指摘している。

その他、暗号資産の永久先物を米国市場に導入し、規制下に置くことの潜在的な利点についても言及している。

同時に、永久先物の対象に伝統的な現物商品を加える場合について、複数の意見が懸念を表明した。彼らは、永久先物に満期がないことから現物市場との収束性が欠け、長期的な価格リスクのヘッジ状有効性が失われる可能性について懸念を表明した。そのため、永久先物は先物市場のリスク管理及び価格発見機能と矛盾するとの見方もある。

また、永久先物は、ボラティリティの上昇、資金調達率、レバレッジ・リスク、価格操作の可能性の高まり等、伝統的な先物と比較してリスクが高い可能性があるとの意見もある。

CFTCが伝統的先物市場で通常監視しているのは、主要な市場における機関投資家のヘッジと投機のバランスであり、関連するリテール市場(ミニ先物やマイクロ先物)への関心は機関投資家の市場よりも低い。

リテール市場である永久先物取引規模が、関連する機関投資家向け商品(伝統的先物)を大きく凌駕した場合、発生し得る事態(例:リスク移転、価格発見という伝統的な市場の役割が起訴される可能性)の懸念がある。

(5)ダイレクト・アクセス

ダイレクト・アクセスとは、清算機関が(FCMを経由せず)直接投資家口座を管理する形態であり、そのために清算機関がブローカー免許を取得する必要がある⑻。

〇伝統的な先物市場における清算業務

伝統的先物市場において、ブローカー(FCM)は市場において清算機関の清算参加者として顧客のポジションを清算し、DCOに対して顧客のポジションを保証する。

清算機関は、清算参加者に対し、リスクに対応する資本要件等の清算機関への加盟要件を設定・監視し、そのリスク管理手順の監査を行うことで、清算参加者間の信頼を構築している。

清算参加者は、自己及び顧客のポジションを保護するだけでなく、リスクの相互化を通じて、他の清算参加者すべてのポジションのデフォルト防止を提供することで、清算機関への信頼が維持されている。

FCMは、顧客の性質、顧客ビジネス、顧客の資本状況を熟知しており、独立した信用リスク評価に基づいて、必要に応じて特定の顧客に追加証拠金を請求することがある。

〇ダイレクト・アクセス時の清算業務

CCP(中央清算機関)の直接参加者が数千人かつ、その大半がリテール投資家の場合、このような詳細な知識と関連する信頼は、はるかに困難である。

その結果、現在稼働しているすべての直接清算リテールDCOは、信用エクスポージャーを受け入れる(または追加担保を要求する)必要がない完全担保契約のみを清算している。

CFTCのスタッフは現在、この低信託・無信託モデルを、伝統的先物市場に拡大する場合、リスク管理のあり方を大きく変える必要があり、その適用可能性を検討する必要がある。

適用した場合、清算機関CCPのリスク管理頻度は、最低でも担保をリアルタイムで計上する必要性が示唆され、取引と同じ速度で行う必要があろう。

損失等による投資家口座に現金不足が発生した(顧客の証拠金が維持証拠金水準を下回る)場合、同口座は直ちに閉鎖され、自動的な投資家ポジションの清算を開始する必要がある。

個々の参加者の損失から清算機関を保護する当該プロセスは、特定の厳しい状況下では、システム全体に害を及ぼす可能性がある。

一部のコメント提出者は、ボラティリティの高い、または流動性の低い週末市場において自動清算が継続的に行われた場合、さらなる清算連鎖の拡大や、市場全体の不安定化につながる可能性を指摘した。このようなフィードバック効果は、流動性が異常に低下するような異常なストレス時に特に顕著になる可能性がある。

レバレッジド・ダイレクト・モデルにおけるリスク管理については、その他、デフォルトの清算手続き(ウォーターフォール)や、あるリテール投資家のリスクを他のリテール投資家が共有すべきか(さらに共有されない場合、従来の相互化されたリソース段階を果たすことができる他のリソースはあるのか?)等多くの課題が存在する。清算参加者の信用リスクと資本構成が既存のFCMの存在を前提とする仲介モデルと異なる場合、既存の基本原則を再分析する必要がある。

技術革新のペースを考えると、24時間365日取引やその清算によって、直接清算モデルも影響を受けよう。CFTCは、24時間365日取引や、担保をリアルタイムで交換する必要がある直接清算モデルについて、トークン化商品のように銀行の営業時間に拘束されない新しい形態の担保使用の可否を含め検討している。

4 おわりに

本稿では、CFTC暫定委員長による講演内容を中心に、CFTCが新たな政策対象事項として認識している事象について説明した。

これら内容における特徴の一つとして、伝統的先物市場から発生した項目ではなく、仮想通貨取引のデリバティブ市場から発生している事項が、既存の精度や伝統的先物市場に政策的な課題となる事柄が見られることが挙げられる。

具体的には、伝統的先物市場に、仮想通貨市場から生まれた新たな事項(ダイレクト・アクセス、取引の24時間365日化等)、既存の制度枠組みに本格的な変更を迫る事項の取り入れを認めるのか、といった問題である。

そうした意味合いにおいて、米国のデリバティブ市場は(伝統的あるいは新商品の別を問わず)変革期にあると考えられ、CFTCの対応が注目される。

注釈

  1. ⑴ 商品先物取引委員会は、大統領が上院の助言と承認を得て任命する5人の委員で構成され、任期は5年ずつ重ならないように設定される。大統領は上院の承認を得て、委員の1人を委員長に指名する。同一の政党に所属する委員は、同時に3人を超えない。上院の承認を受けた委員長が不在の場合、委員会は現職の委員の中から1人を暫定委員長として選出するための投票を行い決定する。本稿の中心的な内容となる2025年5月25日の講演時(Pham, C. D. (2025))及び本資料作成時点(同8月15日)において、委員は2人であり、うちCaroline D. Phamが暫定委員長として活動している(https://www.cftc.gov/About/Commissioners/index.htm)。
  2. ⑵ 当該姿勢は現在も継続しており、3節で紹介する暫定委員長のスピーチでも同内容に言及されている。
  3. ⑶ CFTCのSROへの依存度が高いことには、歴史的な要因もある。CFTCが規制する取引所の多くは、CEAの導入より前から存在しており、大恐慌後の規制構造を、すでに自己執行と自主規制のメカニズムが整っている既存の組織に適応させる方針が現実的だったとの実態がある。詳しくはCrawford. J, et. al (2015) を参照。
  4. ⑷ 自己認証プロセスに関する議論についてはMersinger, K. (2024) を参照。
  5. ⑸ CFTCとSECの行政に関する姿勢は、法律上(商品取引所法あるいは証券取引法)の取り扱い(SROの規則策定過程)を見ても大きく異なる。
    先物取引所等自主規制機関の場合は、CFTCが介入しない限り新規則が自動的に発効するのが通常であるが、証券取引所等自主規制機関の場合は、(即時発効しても全く問題ない程度に重要性の低い規則変更案を除き)提出された規則変更案はすべてSECが審査する。
    CFTCに提出された規則変更案は10日以内に発効する。一方、SECは最初の規則変更案提出から少なくとも30日経過しないと承認しない。CFTCはCEAやCFTC規則との矛盾を認めない限り、規則案や規則改正案を承認しなければならないが、SECはその規則が取引所法やSEC規則との矛盾を認めない限り、規則変更案を承認することはできない。
    関連する法律上、議会はSECに対し、SROが提案した規則変更について慎重に検討することを求め、実際に慎重な検討の実施を確認するセーフガードを組み込んでいるが、議会はCFTCについてはSROが提案した規則変更について、CFTCが介入して慎重に検討するかどうかの判断を委ねている。
  6. ⑹ 同デリバティブ取引は直近の数週間で、週末の取引は個人投資家が一千人以上参加、取引高は数十万ロットに上る水準で推移しており、平均的(あるいはやや活発な平日)と類似した状況となっている。したがって、既に24時間365日取引に慣れた市場の先物取引への拡張は、他の取引に比べてさほど困難ではない可能性がある。
  7. ⑺ 永久先物に類似した商品として、証拠金取引(CFD)が存在する。証拠金決済取引では売手が買手から原資産の現在価値と契約時点の価値の差額を受け取る取引である。永久先物と同様、差金決済取引は、原資産のリターンを一定期間レバレッジをかけて追随することを可能にし、また満期日がないため、永久先物と比較されることがある。しかし米国においてCFDは店頭取引であり、レバレッジの額が異なる、追加のカウンター・パーティ・リスクを伴う等の違いがある。
  8. ⑻ ダイレクト・アクセスをめぐる先物業界の議論については、志馬(2025)を参照。

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  • Shiller, R. (1993) “Measuring asset values for cash settlement in derivative markets: Hedonic repeated measures indices and perpetual futures”, The Journal of Finance, 48(3), 1993, pp.911-931. (https://www.nber.org/system/files/working_papers/t0131/t0131.pdf)
  • 志馬祥紀(2025)、「シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のブローカー免許取得」『証研レポート』1750号(2025年6月)、公益財団法人日本証券経済研究所、pp.38-63. (https://www.jsri.or.jp/publish/report/pdf/1750/1750_04.pdf)